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☆第二十二話 年上の幼馴染み☆
しおりを挟む「章太郎様、こちらで宜しいでしょうか?」
「?」
学校の帰りの買い物で、ユキはいつもの駅前スーパーではなく、駅から一ブロック離れた地元の商店街へと、三人を誘った。
「商店街? いいけど…」
特に反対する気も無いけれど、スーパーよりも駅前商店街へと行きたいユキの提案に、美鶴とブーケも賛成の笑顔である。
「それでは、参りましょう♪」
駅前の車道から曲がると、すぐに地元の駅前アーケード商店街だ。
章太郎が産まれた頃は、この商店街が地域の胃袋などを支えていたと母たちから聞いているけれど、物心が付く頃に駅前スーパーが出来たらしい。
「あ…そいやこっちに来るの、久しぶりな気がするな」
アーケード商店街は、駅方面からの入り口に、昔からの焼き鳥屋さんやパン屋さんが軒を並べて、お客を迎えてくれている。
夕飯の買い物としては少し遅めな時間帯だけど、それでも、地元の主婦の方たちで賑わっていた。
「なんか、懐かしい気分だな」
「ショータローは、あまりコチラへは 来ないのか?」
ブーケたちはこの商店街の雰囲気が好きなようで、歩いているだけで、ワクワクと楽しそうである。
「特に意識して…ってワケでもないけどね。まあ男子なんて大抵、一人暮らしをするか家事を手伝ったりしてないと、商店街そのものに来ないだろうけど」
「ふ~ん、そういうものなんだ~♪」
「私たちは…このニギヤカな様子が、とても温かく感じられます…♪」
と、雪女の感想。
「まあ、そうかもね。駅前のスーパーが出来た後も、なんだかんだでお客が多い商店街だからな」
章太郎にとっても昔からの地元だけど、実家住まいの頃は母が食事の用意をしてくれていたし、御伽噺少女たちとの生活が始まったら冷凍食品やレトルトばかりが、少年の頭には思い浮かんでいた。
今は、ユキが中心となって食事を作ってくれているので、買い物に関しては少女たちに従うベキだろうとか、章太郎は考えている。
(ユキがこっちに来たいっていう程だから…商店街では 色んなお店と顔馴染みだったりするのかな…?)
新妻さんみたいな買い物風景を想像すると、当事者ではない章太郎が、妙にドキドキしたりして。
「お、学校 終わったのかい?」
八百屋さんのオヤジさんが、よく通る大きな声で、声を掛けてくれた。
ユキの顔馴染みか。
と思ったら。
「おじさん こんにちは~♪ いま帰りだよ~♪ あ、ホウレン草ある~?」
「え、美鶴の顔馴染みなの?」
ちょっと意外だった。
「美鶴ちゃん野菜好きで、おっちゃん嬉しいね~! 今日はホレ、こんな立派なホウレン草が入ってるよ~♪」
八百屋のおじさんが手に取って見せてくれたホウレン草は、章太郎から見ても葉っぱが大きくて緑色も鮮やか。
「やった~♪ ユキちゃん、買ってっていい~?」
と言いながら、美鶴は自分のサイフを取り出して、会計を済ませる。
「ほいよ」
と、オジサンはホウレン草の入った袋を、章太郎へと差し出した。
「あ、どうも…」
会計を済ませた美鶴たちが、八百屋さんと挨拶をして、章太郎へ向く。
「あ、章太郎くんゴメンね~。あたしが自分で持つよ~」
と、ホウレン草の袋を受け取ろうと、両掌を出す。
「ん? あ~、いいよ。買い物の荷物は、俺が持つから」
「え、いいの~?」
「いいよいいよ。ブーケもユキも、荷物は俺が持つから、遠慮無く買い物してくれ」
と、荷物持ちを立候補した。
「よ、宜しいのですか…?」
「ボクたちも持てるぞ」
と、少女たちも気遣いをくれる。
「いやあ、こういう時の荷物持ちは、大抵 男の役目だから」
少年としても、女の子に荷物を持たせて自分はフラフラというのは、精神的に辛い。
「そ、それでは…よろしくお願いいたします」
と、三人揃って綺麗な礼をくれる姿に、買い物途中の主婦の方たちが、微笑ましそうに眺めていた。
お肉屋さんやパン屋さんなどではブーケが顔見知りのようで、豆腐屋さんや鰹節屋さんやお総菜屋さんなどではユキが、さっきの八百屋さんやお魚屋さんなどでは美鶴が、特に店主さんと顔馴染みとなっている。
(…いつも一緒にいると思ってたけど…三人とも、それぞれに付き合いの幅が広がっているんだなあ…)
とか思うと、自分だけ置いてゆかれるような小さい焦燥感と同時に、三人はこの世界で楽しく生活が出来そうだと、とても安心もしたりする。
張り合う気分で、章太郎も子どもの頃によく通っていた本屋さんへと足を運んでみる。
「あった」
中に入れば、当時によく面倒を見てくれたオジサンから、顔なじみの如く挨拶を交わせるかな。
とか思ったら。
「あら、章太郎くん」
と、美人のお姉さんが挨拶をくれた。
「え、えっと…」
当時から頭かハゲていたオジサンではなく、大人の眼鏡美人。
黒髪も艶やかな女性の綺麗な笑顔に、章太郎も見惚れてしまった。
ボンヤリとする少年に、美女が可笑しそうに告げる。
「あら、忘れちゃった? 小学校の頃まで、よく遊んであげてたのに、章ちゃん」
と呼ばれて、直ぐに思い出した。
「ああっ、しおり姉ちゃん!」
「正解~い♪」
眼鏡美人が、嬉しそうに微笑む。
「姉ちゃん、いつ戻ってきてたの? 一人暮らししてて大学卒業して、大手のIT企業に入ったって 聞いてたけど」
「うん。退社して、実家を継ぐことにしたの。章ちゃんも、ウチで本、買ってね♪」
親しいヤリトリに、ブーケたちも気に成る様子。
「それで、章ちゃん。後ろの女の子たち、章ちゃんのカノジョ?」
「え、あぁ…その」
どう紹介したら良いかと迷っていたら、ブーケがハッキリと応える。
「初めまして。私たちは、ショータローと生活を共にしている仲だ」
ブーケの自己紹介に、ユキも綺麗な会釈をして、美鶴も楽しそうな笑顔で手を振る。
「まあ。章ちゃんったら、女の子三人と同棲してるの?」
「え、いやっ同棲とかじゃ…ないワケでもないんだけど…っ!」
御伽噺とか鬼とか説明しても、すぐに理解して貰えるか解らない。
「ああ、もしかしてアレかしら? ちょっと前にラノベとかでよく読んだ『俺のお嫁さん候補と一緒に暮らして~』みたいな?」
「いやそれも…って、そういえばしおり姉ちゃん、ラノベ大好きだったよね」
「うん? 章ちゃんがそんなラノベ生活してるなんて、お姉さん なんだかワクワクしてきちゃうわ?」
「いやだから」
しおりは眼鏡を光らせながら、ヲタク乙女なワクワクを隠さない。
年上美女の勘違いに、素直な少女たち。
「そうなのですか…? なるほどです」
「章太郎くんの子供とか~、産むんだね~♪」
「なるほど。だからこのような、女性のボディーを戴いたのだな」
三人はそれぞれに、存在の理由を追加していた。
「え、納得しちゃうの?」
少年的には、正直、女の子三人が認めてくれるのは、すっごく嬉しい。
しかし棚ボタ的な幸運ゲットに、なんだか後ろめたさというか、男としては情けない気もしてしまう。
というか、赤ずきんは元から人間だし、雪女は人間との間に子供を作れるけれど、鶴はそういうお話でもない。
「み、美鶴とか、納得し辛いんじゃあないかな~?」
「? そんな事ないよ~♪」
明るい笑顔。
「そうなの…?」
美鶴曰く。
「今は人間の身体だし~♪ 人間の子供が産めると思うよ~♪ それに~、地球からすれば命の価値とか、みんな一緒みたいだから~♪」
「地球から すれば…?」
なんか唐突に、スケールの大きな話が出た。
「まあ、美鶴ちゃん、面白い子ね♪」
しおりは楽しそうに笑っていた。
色々と購入をして、重たい荷物は章太郎が持つ。
(…こっちも顔なじみ自慢しようとして、変な墓穴を掘ってしまった…)
あの後、しおりは三人と、軽くオシャベリをして。
『幼稚園の頃ねー、章ちゃん ウチで本を読みながらお昼寝しちゃって、おねしょしちゃったのよ♪』
とか、余計な事まで話されてしまう始末。
「ボクたちの知らないショータローを、教えて貰えたな」
「ね~♪」
「ふふ…?」
「くうぅ…っ!」
幼稚園の頃とはいえ、忘れていて欲しい想い出である。
恥ずかしさにまみれながら、しかし章太郎は、さっきの美鶴の言葉が気になっていた。
~第二十二話 終わり~
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