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☆第二十一話 広がり☆

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 いつもの朝。
「ふわわ…お早う…」
 ドアの外から美鶴に起こされた章太郎がリビングへ来ると、ブーケがスマフォを注視していた。
「ショータロー見てくれ! なんか名前の標示が、クラスの女子たちで一杯になってきているぞっ!」
「んー?」
 こちらへ向けられた画面を、寝惚け眼で見たら、たしかに電話帳の画面が女子の名前で埋まっている。
「あー…三人とも、学校で女子たちとナンバー交換 してただろ?」
「「「なんばーこうかん…?」ですか…?」~?」
 ユキが中心となって三人で作った朝食を戴きながら、章太郎は説明をした。
「スマフォでさ、俺たち四人が電話しただろ? あれでも、電話帳に登録できるんだけど…。ここのところ、三人ともクラスの女子たちと、ナンバー交換…えっと、電話帳に登録し合ってたみたいだから、それで 電話帳に女子の名前がたくさん登録されたんだよ」
 ブーケだけでなく、ユキも美鶴も、自分のスマフォを見てみる。
「…なるほど。それで、私のスマフォにも、クラスの皆様のお名前が…」
「あたしのにも~、みんなの名前が たくさん出てるよ~♪」
 ユキが献立を考えているので、今朝も和食だ。
「もぐもぐ…それで相手との電話が出来るし、相手から電話を貰う事も出来るようになったんだ」
「…なるほど、よくわからないが」
「まあ…おいおい慣れるよ」
 まだ三人には、スマフォは難しいのかもしれない。
(クラスの女子からの連絡とか来れば、一発で理解できるだろうけど…)
 とはいえ、特に女子と仲が良いというコミュ力高めな男子高校生でもない章太郎には、女子にお願いするのも、難易度が高い。
 かといって、男子に頼むのはもっとイヤだ。
(誰か…あ、英語の松坂先生とか 頼んでみようかな)
 美人英語教師の松坂先生は、男女ともに人気の高い女性の先生だ。
 クールな美人だけど明るくてサッパリとしていて、特に男子はファンが多い。
(そうだな。松坂先生なら…)
 章太郎だって、同年代の女子よりは、話しやすい。
 学校に行ったら頼んでみよう。
 そんな決意に関係無く、ユキのスマフォがコールをする。
「ん…? ユキ、電話?」
「…なんでしょう…?」
 ユキが自分のスマフォを見ると。
「あらまぁ…? 今日は駅前のデパートで、お肉が特売だとのお知らせです♪」
「…え?」
 まさかご近所の主婦の方々と、既にスマフォ友達?
「章太郎様、ご覧下さい♪」
 見せられたユキのスマフォには、駅前スーパーの広告が表示されていた。
「…ユキ、そういうの 知ってたの…?」
 正直、驚いた。
「いえ、知っているといいますか…」
 買い物の際に、広告を受け取れるコードを入力している人がいて、マネをしたらしい。
「あー…成る程」
 ユキのスマフォに、美鶴たちも興味を持った。
「ユキちゃん~、それ、どうやったの~?」
「商品のお買い得宣伝とは…! 素晴らしい情報だな!」
「うふふ…今日の帰りに、また駅前のデパートへ寄りましょう…♪」
 予想外の形で、三人はスマフォに慣れそうだ。
 と、章太郎は少し安心をした。

 登校時に、少し何かを想っている様子のブーケ。
「…ブーケ、何か気になるの?」
「え、あぁいや…ちょっとな…」
 落ちこんでいるという感じではないけれど、どこか望郷の念を感じさせる気がする。
「…俺で解る事なら、何でも言ってくれ」
 自分は、鬼との戦いには何の役にも立てないし、女の子三人に護られている身だ。
 出来るだけ力になりたいとは、常に思ってはいる少年である。
「う、うむ…まぁ、大した話では ないのだがな…」
 カバンからスマフォを取り出して、ジっと眺めるブーケ。
「…もし、お婆ちゃんがこの板を持っていたら…いつでも話せたのかなぁ…って」
「あぁ…」
 赤ずきんちゃんのお婆ちゃんは、森で一人暮らしをしている。
 たしかに心配になるだろうし、赤ずきんちゃんはお婆ちゃんっ子なイメージもある。
(…まあ、あの世界観でスマフォとか、似合わない気はするけど…)
 赤ずきんちゃんとお婆ちゃんが、スマフォでヤリトリをして狼に警戒する様子などを想像すると、少し微笑ましい。
(スマフォのCMみたいだな…)
 とかホノボノするのは、今のブーケには失礼な気がした。
 ブーケたちが、童話の世界からこちらの世界へ来ているのは、章太郎の祖父である章之助が異次元の扉を開いてしまい、鬼たちもこちらの世界の存在を知ってしまった事が原因である。
 章太郎の生体エナジー「聖力」がとても美味しいらしく、章太郎の命を守る為に、赤ずきんちゃんである赤井ブーケと雪女である柊ユキと恩返しの鶴である機織美鶴がこの世界へとやって来て、章之助が作った人工素体へと入っているのだ。
(まあ、爺ちゃんが原因とはいえ…直接の要因は俺でもあるんだよな…)
 そう考えると、気軽に慰めの言葉も思い浮かばない少年である。
(とにかく…早く爺ちゃんが童話世界との扉を閉じてくれれば…)
 今の少年には、それしか思い浮かばなかった。
 校門が見えて来た、

 昼休みのチャイムが鳴る。
 今日は、昨夜のうちに章太郎がお弁当を頼んでいたので、四人ともお弁当だ。
 いつものように、三人は守護対称である章太郎と一緒に食べようと、お弁当を掌に集まってきた。
「ショータロー、今日は教室で食べるのか?」
「あ、いや…今日はここで友達と食べるから、三人も友達と食べて」
 と、少年は男子のクラスメイトと机を囲む。
「そうですか…?」
 予想外の展開に、ユキたちもやや戸惑う。
「ど~しよ~か~?」
 悩める三人に、章太郎は、クラスの女子たちへ祈る気持ちで、チラチラと視線を送る。
(どうか…三人に声を掛けてやってくれ…っ!)
 章太郎なりに、三人が女子の友達を自ら作ろうとかしないで、護衛の努めを真面目にこなしている事に、申し訳なさを感じていた。
(折角 こっちの世界を三人とも楽しめそうなんだし…やっぱり同性の友達は、いたほうがいいだろ…)
 チラチラと見ていたら、三人だけで机を囲もうとしている。
 その姿は、章太郎から避けられている姿にも見えて、少年の罪悪感が刺激をされてしまう程だ。
(…と、取り敢えず今日は、俺も一緒に食べようかな…)
「あの――」
 と声を掛けようとしたら。
「あ、あの…ブーケちゃんたち…一緒に、お昼 食べていい?」
 クラスの女子たちが、少し恥ずかしそうに、三人に話しかけてくれた。
(!)
「私たちと…ですか?」
 守護対称である章太郎の許可を伺うように、三人は少年を見るも、章太郎は気付かないふり。
「――ああ~そうだよな~。ハハハっ!」
「? なに言ってんだ章太郎」
 男子たちには、章太郎の小芝居がよく解らないらしい。
 少年の様子に、三人も納得をした。
「それでは、皆でテーブルを囲もうか」
「「「きゃ~?」」」
 特に、ボーイッシュなブーケのファンな女子たちが、黄色い歓声を上げた。
「え~、ユキっちたちと 食べるの~?」
「あ~、わたしたちとも、食べようよ~♪」
「あ、は、はい…!」
 初めて誘われた為か、ユキは恥ずかしそうに戸惑ったり。
「美鶴ちゃん、わたしたちと 食べない~?」
「うん~♪ みんなで食べよ~♪」
 三人はそれぞれ、女子たちとテーブルを囲んで、お弁当を食べ始めた。
(…良かった)
 まるで親心のようだけど、これで三人の世界が広がるだろう。
 それは単純に、章太郎としても嬉しい事だ。
「あ、ブーケちゃん、あとで電話 してもいい?」
「電話? ああ、あの板の事か。かまわないぞ」
(お、電話の話が出たぞ! 良かった~♪)
 昼休みにでも、松坂先生へ頼みに行こうと思っていたけれど、女子同士に任せた方が良いっぽい。
 ブーケもユキも美鶴も、クラスメイトたちとの食事を楽しんでいる。
 三人のファンである男子たちは、そんな様子を羨ましそうに眺めるだけだ。
「あ~あ、女子たちはブーケちゃんたちと食べてるのに…」
「俺たちは章太郎か~」
「外れクジだな」
「悪かったなハズレで!」
 クラスメイトたちの悪態を聞きながらであっても、今日の昼食は、いつも以上に美味しいと感じた。

                        ~第二十一話 終わり~
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