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☆第二話 愛らしき天使☆
しおりを挟む麗に案内をされて、職員室へと到着をした均実。
「それでは 均実さん。ごきげんよう♪」
「あ、あの…ありがとうございました」
輝く笑顔で手を振りながら、麗は教室へと向かった。
一年B組を担当する若い男性教師との挨拶を済ませて、軽く学校の説明を受けて、予鈴が鳴る。
「お、それじゃあ平くん、教室へ向かおうか」
「はい」
一年B組で、転入生として紹介される。
「は、初めまして。今日からこの学校へ通います、平均実といいます。ヨロシク、お願いします…っ!」
緊張しながら頭を下げると、みんなが拍手で迎えてくれる。
(よ、良かった…)
トチらなくて安心して、頭を上げたら、教室の後ろの席、視線の先が輝いている。
(う…っ! こ、この眩さは…っ!)
目を凝らして見ると、輝く笑顔の麗が、優しく優雅に手を振っていた。
「う、麗さん…っ!」
「なんだ、もう毒島と知り合いなのか」
毒島の隣が空いているし丁度良いと、均実は麗の向かって右隣席へ座る事となった。
シズシズと自席について、隣の麗へ、やや緊張しながら、あらためて挨拶。
「あの…さっきはどうも…」
「同じクラスだなんて、とても喜ばしい偶然ですわ♪」
(あぁ…)
心の底から歓迎してくれている笑顔だ。
「それじゃあ、授業を始めるぞー。毒島、平に 色々と教えてやってくれー」
担任教師が、古文の授業を開始する。
「均実さん。教科書はお持ちですか?」
学校によって使用する教材が違う事もあるので、均実を気遣ってくれている。
「あ、えっと…教科書が、違うみたいです…」
「まあ、それでしたら、私と一緒に 教科書を見ましょう♪」
優しく言いながら、麗は机を隣へくっつけて、間に教科書を開いてくれた。
「あ、ありがとうございます…」
普通に隣の席よりも、更に近くで見ると、白い肌がツルツルのスベスベで、水まで弾きそうなパツパツほっぺで、しかも。
(……お花の香りが…)
ふんわりと漂ってくる。
清潔で清楚な優しいバラの香りで、鼻腔が擽られてしまった。
(こ、これは…ドえらい事だ…っ!)
均実は百合でも少女好きでもないけれど、麗の愛らしさに心が射貫かれ、なんだかドキドキしてしまう。
優しくて、均実への信頼感も無防備のような、近接距離だ。
愛らしい媚顔や優しく高貴な香りだけでなく、ブレザーの制服でも隠せない程の、恵まれボディーライン。
そんな美少女が、警戒心皆無で、肩が触れる程にくっついているのだ。
(こっ、こんな美少女っ――隣にいるだけでっ、ハナヂ不可避だ…っ!)
新しい自分を目覚めさせそうな天使に、必死の理性で抗う均実であった。
花の香りと柔らかくて温かい肩でピヨピヨしていると、麗の向こうの隣から、男子同士の小さな会話が聞こえてきた。
「やべ…消しゴム 忘れちまった! 貸してくれよ」
頼まれた前席の男子は。
「お前 消しゴムの使いかた、汚ねーじゃん」
と拒絶。
「マジで頼むよー」
「ツバででも消しとけ」
無碍に断られてしまった。
(私ので良かったら、貸したいけど…)
間に麗がいて距離もあるし、自分から男子に話しかけるのも、正直恥ずかしい。
均実が戸惑っていたら、麗はペンケースからカッターを取り出して、消しゴム本体と厚紙製のケースを上下に二等分して、綺麗な元後ろ側を男子へと手渡した。
「これで宜しければ、どうぞ♪」
優しい天使の笑顔に、男子は驚きと畏れと緊張と深い喜びという、非常に複雑な表情を見せて。
「! あっあっあっ――ぁああっ、有り難う御座いますっ、麗様ぁっ!」
床に跪いて額を擦り付けながら両掌を揃えて差し上げて、天使からの施しに涙の感謝顔で震えていた。
「「「「「「」おおぉ…」」」」」
麗の行為に、クラス中の男女が感動の声を上げて、施しを受けた男子への羨望で吐息が溢れる。
(…す、すごい…)
みんなの反応にも驚いたけれど、自分の消しゴムを綺麗に切断までして、困っているクラスメイトを助ける麗の親切な行為に、何よりも驚かされた均実であった。
思わず呆然と見つめてしまう均実に、麗はまた、輝く様な笑顔を見せる。
「これで安心ですわ♪」
(この人は…ただ強くて毒舌な美少女ではないんだ…! 優しくて自己犠牲の心があって…本物の天使なんだ…っ!)
という感動を経て授業が進み、四時限目が終わって、お昼休みとなった。
机の上に、お昼を拡げる均実。
引っ越してきたばかりで、母は家の片付けが忙しかったので、今日の均実はコンビニでサンドイッチなどを購入していた。
「均実さん、ご一緒して宜しいかしら?」
隣の席の麗が、優しく声を掛けてきた。
「あ、はい。ぜひ…」
転入生である均実に、気を利かせてくれたのかも知れないと、均実も嬉しい。
「あの…あたしたちも、いいかな…?」
「あ…ぜひ、一緒に♪」
と、均実の前の席の女子二人も、机を囲んでくれた。
四人で机を合わせて、それぞれのお弁当を開ける。
麗のお弁当は、女子としては普通サイズだけど、やはりオカズは手が込んでいる。
特に、肉詰めピーマンとか、お弁当の具としてはちょっと珍しいだろう。
他にも、鶏肉とネギの炒め物も窺える。
(美味しそう…)
とか、自分の目の前の野菜サンドを見て、ちょっと思ったり。
しかし麗は。
「う…」
お弁当を開ける前の輝く笑顔に比して、中身を見たら、憂いを魅せてしまっていた。
(落ち込んでても可愛い…)
つい見惚れてしまった均実である。
「あ、あの…どうか したの…?」
授業中も自信満々な麗の、こんなに落ちこんだ様子に、やはり心配となった。
一緒に机を囲む二人は、その原因を、既に知っているらしい。
「麗さん…今日も苦手なおかずが入ってますね…」
「はい…」
クラスメイトの言葉に、シオシオと頷く麗だ。
おかずを拝見するに、苦手といえばピーマンかネギな気がする。
「苦手…もしかして麗さん、ネギかピーマン、苦手なんですか?」
「えぇ…お恥ずかしいお話ですか…」
と、項垂れながらも、恥ずかしそうに頬を染めて、自らの苦手を包み隠さない。
(あぁ…可愛い…?)
美しい天使の麗に対して、初めて、しかも強く庇護欲が芽生える均実だ。
それはクラスメイトたちも同じらしく、話を聞いていた廻りのみんなが、麗へホンワカした愛情の眼差しを向けている。
「ピーマンもネギも、私は好きですよ」
と話を振ったら。
「…えええっ!」
麗が、大きな眼を更に大きくするほど驚いて、そしてそんな驚愕顔も美しいと、均実の心が揺さぶられた。
「均実さん、あなた…ピーマンもおネギも、苦手ではありませんのっ?」
愛らしい媚顔が期待に輝き、しかも目の前一センチにまで、急接近。
「! は、はぃまぁ…っ!」
(ビックリした…っ! あんなに可愛い顔で急接近とか…心臓が止まるかと思った…)
麗の瞳は素直な感動でキラキラしていて、しかも直ぐ近くで良い香りもした。
(…知らない扉が開きそう…っ!)
クラスの女子たちが憧れる気持ちも、よく解る。
「あ、あの…均実さん…」
麗が、恥ずかしそうに頬を赤らめて、モジモジし始めた。
「こ、このようなお願い事をするのは、お恥ずかしいのですが…あの、お嫌でしたら…断って戴いても大丈夫なのですが…」
身体の大きな不良男子三人を相手に全く恐れない麗が、こんなに恥ずかしそうに、身を小さくしている。
(可愛い…)
周囲の女子たちも、ポワポワと庇護欲を刺激されている様子だ。
均実は「ピーマンとネギを食べて欲しいのかな」とか想像をする。
はたして麗は。
「あの…もしお嫌でなければ、その…」
恐る恐るお弁当を差し出して。
「こ、このピーマンとおネギをっ、食べてしまって、戴けましてっ?」
「えっ――」
お願い事に驚いたのではない。
お弁当を差し出す姿が、まるで「お付き合いして下さい!」と緊張しながら告白をする少女のようだったからだ。
均実の返答を待つ麗は、大きな眼を恥ずかしそうにキュっと閉じて、断られる事を想像して、怯えても見える。
(う…麗さん…?)
こんな表情で告白をされたら、どんな男子でも無条件で受け入れてしまうだろう。
(…麗さんは、私たちが護らなくちゃ…っ!)
そんな想いまで、ムクムクと湧き上がってくる均実だ。
「はい。戴きます」
笑顔で応えると、麗の表情がパァ…と輝く。
「よ、宜しいのですか…? 均実さん…♪」
まるで、告白を受け入れられて心の底から安心したような、愛らしい媚顔。
(おおぉ…)
間近で直視していた均実の頭がピンクのモヤに包まれて、思わず麗を抱き締めたくなってしまったり。
ハッと我に返って周囲の女子たちを見ると、麗の愛顔に見惚れつつ、均実にグッジョブみたいな笑顔とサムズアップ。
(…みんな、ピーマンとネギは苦手なのかな)
とか思った。
~第二話 終わり~
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