虐待ふたなり機械少女は地下世界でマフィアの女王となる

ハヤイもち

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1章

第3話 6年過ぎた、時が動き出す---見つけた見つけたやっとみつけた---

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制服のスカートを揺らして洗面所に向かう。

すべてがぼんやりとしていて夢のようだった。
そう、この現実はすべて夢なんだ。
だってわたしはあの夜から一度も彼に会えてない。

9歳の誕生日。
両親が殺された。
そして9年間レイカを閉じ込めていた箱は
いとも簡単に壊された。
それだけ。

だがレイカはその日のことを一日も忘れたことはない。
忘れるどころか時が流れるほどに美しく、鮮やかなものとなっていく。

男の匂いや声や手の温もりや、
そして黒く暗い底なしの瞳に映る星も
心をつかんで離さない。

それどころかあの男に対する執着、渇望は
年々強くなっていく。

男が去った後警察がやってきた。
そしてレイカは警察に保護されて、施設に入れられた。

警察の捜査について詳しくは教えられなかったが、
なんでも事件については捜査打ち切りになったらしい。
レイカを保護した人のいい警官が「上からの命令で、ごめんよ」
と言っていたのを聞いた。

レイカは安心したような、がっかりしたような気持だった。
だってもしあの殺人鬼が警察に捕まったら、
また会えるかもと思ったからだ。

だけど、男が警察に捕まってしまうのも嫌だと思っていた。

彼がレイカの箱を壊したせいで、
箱に入れられてしまうなんて
そんな皮肉はあっていいはずがない。

あの日からちょうど6年たった。
レイカは今日15歳になった。

施設の洗面所で顔を洗う。
そして手慣れた動作で耳にピアスを付けた。

「今日も私は世界一かわいい。
だからあの人に会えるよ」

鏡の中の自分に微笑んでみる。
呼応するように銀色のピアスがきらりと揺れた。

*****************************************

「最近マフィアの勢力拡大や複数の組織の台頭により、街中でも抗争が起きており、」
「麻薬取引など・・・」

食堂の上の台にちょこんと置いてあるテレビから流れるニュースに、
しかめっ面を張り付けた施設長が持っていた新聞を置いた。

「まーた、街のクズどもの話だ。気分が悪い。ああいうやつらがいるから
治安は悪くなるし、世の中は糞になる。
本当にこの世の中はクズばかりだよ。
どうしてこんな悪いことばかりが起こるんだ?
経済も悪い、政治家も悪い、警察も怠惰だ。もうどうしようもないな」

誰に言っているのか、それとも大きな独り言なのか、
そして施設長は自分の言葉に大きく頷くと
また新聞を読み始めた。

レイカは食堂の入り口でちょっと立ち止まってしまった。
機嫌が悪い施設長を見たら、近づくべからず。
それは施設に暮らす子どもたちの暗黙のルールだった。

下手に近づいてしまった子どもが八つ当たりのように
「生活態度が悪い」「挨拶が小さい」「食べ方が汚い」
等の説教をされる様子を何度か見ていた。

彼はどうして自分から不機嫌になるようなことをするのかな、
悪いニュースが嫌ならテレビも新聞も見なければいいのに。

不思議に思うが、大人とは総じてこういうものだ。

だが、施設長が機嫌が悪いのはもうどうしようもないことで
食堂に入るのに機嫌がよくなるまで待っているわけにもいかない。

失敗した。
今日はちょっと寝坊してしまったのだ。

実は昨日、誕生日を理由に同室の子達と夜更かししたのだ。

ベッドに食堂から拝借したクッキーや砂糖菓子を並べて、
その上に無理矢理ろうそくを突き立てて、火をつけて、
バースデイーソングを歌った。

その後深夜まで話をした。
最近流行りの有名人の話、テレビの話、学校のこと、
そして好きな子の話。
もっともほぼはしゃいでいたのはほかの子達で
レイカの誕生日という口実を使って、
子どもたちは羽目を外してはしゃいでいたのだ。

だから今日はちょっと寝坊してしまった。

同室の子たちはいつも通りの時間に起きて、
澄ました顔で朝食をとっている様子に
恨み言を言いたい気持ちが沸き上がるが
ぐっとこらえる。

ぐずぐずしてたら学校に遅れてしまい、
それこそ施設長に目をつけられて大目玉を喰らう。

「・・・おはようございます」

レイカは聞こえるか聞こえないかぐらいの声で施設長にあいさつをして
後ろを通り過ぎようとした。

しかし、後ろを通り過ぎる寸前でふとテレビの映像が目に入った。

瞬間。
時が止まった。

いや、違う。

逆だ。

動き出したのだ。

6年前のあの時から、止まっていた時計の針が
音を立てて動き出すのが分かった。

「おい、何をぼけーっと突っ立っている、早くしないか」

もう、周りのことなど気にならなかった。
騒音にさえならない。
すべてが静まり、レイカの中から消える。

そして、一つの、そう、そのテレビの映像だけに
世界のすべてが集約される。

「いた」

彼が、いた。
何も変わらない。
あの時の彼のまま。

暗く、黒い瞳は変わらない引力で
レイカを引き寄せる。

見つけた。
大好きだ。
愛している。

今すぐ叫びだしたかった。
体中がばらばらになりそうなくらい細胞の一つ一つが
歓喜で震えている。

頭がおかしくなったようだ。
いや実際おかしくなっていた。
施設長が驚いて止めていなければ、
レイカはテレビに突っ込んでいた。

「おい!どうした、誰か来てくれ!」

いつもしかめっ面の施設長が見たこともないくらい大慌てで
レイカを羽交い絞めにしている。

麻薬を盛られた人間のような、いや赤い布を追いかける闘牛のように
レイカにはテレビに映る男にしか意識がなかった。

「どうしたんですか?」
「突然、こいつが暴れだして」
「驚いた。何かしたんですか」
「いや、何もしてない!」

他の大人たちがレイカと施設長の周りに集まってきて
わいわいと騒いでいる。

子どもたちも、何事か、何が起きたと
わらわらと周りに集まってきていた。

だが、そんなことは気にならない。

だってレイカにとってこの世界で一番大事なものを見つけたのだ。
やっと見つけたのだ。
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