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第一章 戦う聖女
眠れる獅子が起きる時-決意する第一王子-
しおりを挟む第一王子。
孤高の剣士。
常に剣の修行をしているストイックな男で、
魔力も持たないのに剣術のみで魔物と対等以上に
渡り合うほどの人間離れした剣士。
それに加え、他の兄にも王様に対しても
毅然とした態度で接し、他の貴族や地位の高い者と
慣れ合うことがない。
どんな賄賂も栄誉も彼にとっては何の価値もないようだった。
彼が王国にいた時は、
民衆からは近寄りがたい存在として、
頼られ、そして恐れられていた。
しかし、俺は今まで兄貴が怖いと思ったことはなかった。
俺が見てきた兄貴は、いつも
聖女たちに囲まれて、だらしなく鼻の下が伸びきっていた。
そして、血がつながっているとはいえ、王子でもない俺に対して
いやにフレンドリーにユーリと呼び捨てにしていた。
-本当に力のあるものは、それをひけらかしたりしないものよ。
ふと、お母様の言葉を思い出した。
「ユーリ、答えろ」
じっと俺を見つめる兄貴の目は黒く澄んでいて、
言い訳などできないと思わせる。
「…った、」
掴まれた肩がミシリと音を立てる。
「っわ、わるい」
俺が痛みに顔を顰めると、
慌てて兄貴が俺の肩から手を放した。
薄く手形が残る肩を見てぞっとする。
「いや、…俺の方こそ大人げなかった。
…兄貴、
助けに来てくれてありがとう」
うつむく俺の頭に豆だらけのでかい手が乗せられる。
「でかくなったな。
ユーリ。お前が
生きててよかった」
わしわしと頭を撫でられて、
変わらない子ども扱いにムッとする。
「やめろっ、バカ兄貴っ」
頭を撫でまわす手を掴んで
辞めさせようとしたところで
逆に体を引き寄せられて、
気が付くとその大きな体にすっぽりと
抱きしめられていた。
「何すんだっ」
「よかった。本当によかった。
ごめんな、寂しい思いさせたな。
辛い思いもしたんだよな。
傍にいてやれなくてごめんな。
一人でよく頑張ったな」
「暑苦しい。離れろ」
「そうだな。
お前はもう立派な王子だもんな。
よし、じゃあ、一緒に国を救うついでに
悪者退治をしようか」
ぽんぽんと背中を軽く叩き、
兄貴は俺から離れた。
「言われなくても
そうするつもりだ…」
「ま、すぐに終わらせるから大丈夫だ。
お兄ちゃんに任せておけ」
軽口をたたく兄貴だが、その腕は本物。
何も言えずに黙って支度を続ける。
「くそっ、兄貴のせいでまた服を
探さないといけなくなった」
それにしても体の痣について、
追及されなくてよかった。
支度をしながら俺は内心安堵していた。
こんな傷、恥でしかない。
それにもう俺にとっては終わったことだ。
そんな俺を見透かしたように兄貴が
声をかけてきた。
「その体の痣。言いたくないなら別にいいが、
俺の目はごまかせないぞ。
…父と弟たちがお前を囮にして逃げたことは
他の奴らから聞いている。
お前が今まで王宮でどんな
扱いを受けてきたかっていうことも
見当がついている。
だからな。
きっちり報いは受けさせなきゃ
いけないよな?」
振り返った兄貴を見て、
しまったと思った。
眠れる獅子を起こしてしまった。
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