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第一章 戦う聖女
第一王子の聖女救出劇-魔王城からユーリを救い出せ-
しおりを挟む魔王城に着く頃にはすっかり日も暮れていた。
喉が異常に渇く。
持ってきた水筒をがぶりと一飲みするとそれを握りつぶす。
柄にもなく緊張している。
まさか魔物とのドキドキハーレムを夢見て転生した俺が
魔王城に単身で切り込みに行くなど思わなかった。
全くこれじゃどこぞの少年漫画の主人公だ。
しかし、今回の目的はあくまでユーリの救出。
魔王が実際どれくらいの強さなのかわからないが、
戦わないに越したことはない。
少なくとも今はその時ではない。
こういうのはその場のノリではなくて、
もっと仲間を集めて、なんかそれっぽい修行とかして
強くなってから挑むべきだと教科書で学んだ。
(俺は修行しなくてもレベルマックスだけど)
闇に紛れてこっそり侵入し、
ユーリを見つけたら、誰にも見つからずに
さっさと退却だ。
今回は魔物に出会いませんように。
特にゴブリンにだけは出会いませんように。
待て待て待て。こんなマイナス思考じゃだめだ。
今日もし運命の出会いがあるとしたら
超絶可愛い猫耳美少女との素晴らしい出会いが
訪れますように。
キランと流れ星が光ったのを確認して、
俺は忍者のような全身黒づくめの恰好で
魔王城に乗り込んだ。
カンカンカンカンと城に鳴り響く鐘の音。
魔物の一人が侵入者を知らせる鐘を鳴らして叫ぶ。
「侵入者あり!侵入者あり」
「敵は」
「一人です!」
「全身黒づくめの男です」
1人が呼べば、3人10人と追手の魔物の数は
倍々に増えていく。
「うっそだろぉ!」
こんなん出オチじゃねーか!
俺の武器は結構長い大剣。
つまり狭い室内の戦いは不利になる。
一応腰に短剣もあるので後れを取ることは
ないと思うが、使い慣れない武器で戦いたくない
という思いもあり、逃げの一手で城の中を走る。
魔王城は広く入り組んでいるため、
撒くことは可能だろうと思うのだが、
なにせ数が多く、撒いたと思ったら
わき道からうじゃうじゃ出てくる。
地の利もあちらにある。
これは戦いを避けているばかりでは
いられないらしい。
俺は立ち止まり、くるりと方向転換した。
それを見た魔物の一人が襲い掛かってくる。
一瞬で短剣を抜いて、心臓を一突きする。
そのまま横へ薙ぎ払うと、魔物は血しぶきを上げて倒れた。
倒れた魔物を踏み越えるように次の魔物が来る。
攻撃をかわしながら、次々に迫りくる魔物を
倒していくが、倒しても倒してもきりがない。
「まてっ!」
その声に襲い掛かろうとした魔物たちが
一斉に動きを止める。
…まさか、魔王か?
息をのんで見上げたそこには、
ゴブリンがいた。
「ゴブリンじゃねーか!」
きっとゴブリンにすれば理不尽極まりない怒りでは
あると思うが、俺はこれをぶつけずにはいられなかった。
「あの方を誰だと心得る。ゴブリン将軍だぞ」
魔物の一人が俺に向かって叫んだ。
「外野は黙ってろ!」
俺もまけじとその魔物に叫んだ。
「その男の言うとおりだ。
ここから先は手出し無用。
一対一の男と男の勝負だ。
お前の姿を見た時から、
この胸の内から湧き上がる熱。
俺はお前に挑まなくてはならない。
本能がそう叫んでいるのだ。
黒い騎士よ。俺の勝負を受けろ!」
ゴブリン将軍が高らかに宣言すると、
魔物たちは俺を囲むように陣形を組んだ。
「さぁ大剣を取れ。正々堂々勝負だ」
俺はさっと目だけであたりを見回す。
そして。
「やなこった」
一言そう言うと、俺は大剣で
陣形を組んだ魔物をまとめて薙ぎ払った。
陣形が崩れ、魔物たちが混乱している隙に
俺はその場を走り去った。
「逃げる気か!待て!勝負しろ!」
後ろからゴブリン将軍の悔しそうな声がするが、
無視して走り去った。
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