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第一章 戦う聖女

ふわふわ真っ白の料理長とユーリ

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魔王は朝食を食べ終わると
「ユーリ、すまないが我は仕事がある。
お前はゆっくり食べていてくれ」
と言って部屋を出ていった。

俺はけだるい体を理由に、ゆっくりと朝食を味わい、
すべて丁寧に平らげた。


「気に入っていただけましたか?」

俺が食事を終えると同時くらいに部屋に入ってきたのは
真っ白でふわふわな毛並みの大きい猫。
いや、おそらく悪魔だろう。

愛らしい見た目をしているのに、顔に似合わない渋い声で
話しかけてきた。

「まさか、お前が料理長か?」

「はい」

「あの小さな悪魔が作ったと思っていた」

「ああ、あれは伝令の悪魔です。
魔王様とあなた様の食事はすべて私が作りました」

と言うと執事のように丁寧にお辞儀をする。

そして、ふわふわのピンクな肉球で皿を片付け始めた。
俺は慌ててそれを手伝う。

「そんな手で皿が持てるのか?」

「ええ、問題ありません」

「割ってしまってはいけない、手伝う」

「そうですか?ではお願いします」

料理長はコテリと首を傾げ、まん丸な目でこちらを
不思議そうに見たが、素直に言うことを聞いた。

「魔物、というかお前たちは
俺たち人間が嫌いじゃないのか?」

料理長の隣で皿を洗いながら尋ねる。

「…うーん。

私はずっと食卓のことを任されている身ですので、
戦いに出たことがないのです。

そのため人間と関わったことすら
ほぼありません。

よく知らないことをひとくくりに好きか嫌いか判断するほど
浅はかではないつもりです」

「お前のようなものもいるんだな」

「そうですね。
魔物はすべて野蛮だと思っておりましたか?

確かに野蛮なものはいますし、
人間よりも本能に従う生き物ですから
そう見えてしまうのは致し方ありません。

ですが、彼らは素直で正直者ばかりです。

少しばかり乱暴者ですが、ともに暮らせば、きっとユーリ様も
彼らのいいところが見えてくると思いますよ。

それに魔王様はとてもお心の広い、素晴らしい方です。
ユーリ様はもうわかっておいでかもしれませんが…」

「…そ、それは」

「そんなに怖い顔をしないでください。

あなたは聖女で魔王様に囚われている身です。
私もそれくらいはわかっています。

複雑な事情が邪魔をして、素直になれないこともあるでしょう。

ですが、どうか魔王様の気持ちは誤解しないでいただきたいのです。

彼は本当にあなたのことを大切に思っています。
彼があなたを大事に思うなら、私もあなたを大切にしたい。

仲良くなりたいし、おいしいご飯を食べていただきたいのです」


ふにゃっと効果音がつくような顔をして料理長が言った。
そして俺の手にその手を重ねる。


「今日は手伝ってくれてありがとうございます。
またおお暇がありましたら、ぜひ私とお話ししてください。
いつでもお待ちしております」

「…また、来てもいいのか?」

「もちろんでございます」

「お前の、…好きなものとかはあるか?」

「生のネズミです」

「そこは猫なんだな…」

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