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第一章 戦う聖女
魔王と朝食を_料理に一番大事なもの_
しおりを挟む「なぜ、お前の分も一緒に…」
二人分の食事が並べられた食卓で、
目の前の魔王を見ながら俺は眉をひそめていった。
※※※
白いテーブルに乗せられた朝食は
出来立てでホカホカと白い湯気を上げている。
カリっと焼けたベーコン。
その上に乗るとろとろの半熟卵。
トーストは薄くバターが塗られ、軽く焼かれて
香ばしい匂いを漂わせている。
新鮮な野菜で彩られたサラダに
薄く透明なオニオンスープ。
サイドにはブルーベリージャムの乗った
ヨーグルトが添えられている。
小さな悪魔が食事を運んできた時は
どんなゲテモノ料理が来るのかと思ったのに。
食欲を刺激する匂いに空腹の胃袋が
ぎゅぅうううっと音を立てる。
…これも魔王を倒し、国民を助けに行くために
必要なことだ。
体力と魔力を回復させないといけないから、
仕方なく、しょうがなく。
そうでなければ悪魔が作った食事など食べない。
椅子に座って、食材となった命に祈りを捧げる。
俺の向かい側に魔王が座り、それを興味深げに
眺めていた。
かちゃりとナイフとフォークを手に持ち、
卵に切れ目を入れた。
途端に黄色い黄身がそこからあふれて、
きらきら光る。
とろっと崩れるそれを一口、口に運んだ。
――おいしい。
俺の様子を見て、魔王が口角を上げる。
「うまいだろう?
我はテーブルマナーなど気にせんから、
もっと豪快に食べてよいぞ」
俺は魔王の言葉を聞くと、かちゃっとフォークとナイフを
置くとパンにかじりついた。
表面はカリっと焼けて、中は真っ白でふわふわだった。
口いっぱいに頬張って、もぐもぐと噛む。
ぽたっ、ぽたっ、ぽたっ。
「どうした?うますぎて感動したか?」
にやりと笑う魔王が腹立たしい。
なぜか俺の頬を涙が伝っていた。
幾筋も流れる涙は止めることができず、
俺はそれを無視してパンにかじりつく。
「我が専属の料理長はな、人間の食事など作ったことがないと言って
戸惑っておったのだ。だが、『我の大事なものの食事だから頼む』
と言ったら、『腕によりをかけて作ります』と言ってくれたのだ。
あいつの料理がまずいはずはない。なぜなら、料理で一番大事なものが
入っているからな」
そう言うと魔王も自分の食事に手を付ける。
魔王の目の前にも俺と同じ食事が置かれていた。
『ふむ、確かにこれはうまいな』
『人間の食事もなかなかいいな』
となど言いながら食べている。
王宮にいた時は、これとは比べ物にならないほど
高級な食材と最高級のシェフが作った食事が食卓に並べられていた。
確かに味はおいしかったかもしれないが、
砂を噛んでいるようにしか感じなかった。
こちらをにやにやと見下す
お兄様たちの視線にいつもびくついていた。
それだけでない。
国民や周りに期待され、聖女であるにも関わらず王子となった俺は
いつでもそれらしい振る舞いを期待されていた。
お母様のたった一人の息子。
そこまでの力もないのに、国を救ってくれと言われ続けた。
周りからの重圧。
責務を果たさなければ、期待にこたえなければという思い。
いつでも針のむしろに座らされているようだった。
こんなこと、感じてはいけないのに。
解放されたい。
自由になりたい。
どうか、俺を、このかごから出してくれ。
それがこんな形で叶うなんて思わなかった。
まさか魔王に捕らわれることで、あの籠から解放されるなんて。
「料理長には『ユーリは泣くほど喜んでいた』と伝えておこう」
魔王が俺の頭を撫でながら立ち上がる。
「…」
俺はまた、目の前の少ししょっぱくなったパンに噛みついた。
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