上 下
1 / 24
第一章 戦う聖女

第一話 捕らえられた魔王城にて

しおりを挟む

魔王が椅子に座った俺の頬に手を伸ばした。

「俺は王子だぞ?ベッドに誘いたければ、それ相応の礼儀があるだろう」

俺はパシッとその手を払う。
内心の動揺を悟られないように、
余裕たっぷりに魔王を見下ろしながら、足を組みなおす。

「全く往生際が悪いな」
「・・・・あっ」

いつの間にか魔王は俺を腕の中に抱いていた。
するりと王子の服をはだけさせと、
顎を掴んで口づけをしてくる。

「ふっ、ちゅっ、くちゅっ、うっふぅっちゅっ」

口を開け、舌を差し入れ、口内を掻きまわしていく。
自分勝手にも見える魔王の口づけは、激しく、
しかし、思いがけない気持ちよさに勝手に体が火照っていく。

「・・・いっ、いい加減に、しろっ!」

「どうした?威勢がいいのは口だけか?」

今度は魔王がゆったりと笑った。

「・・・ほざけっ!魔物風情が」

「その強がり、いつまで続くか見ものだな」



※※※

-時はさかのぼり、総攻撃の前日。

王国のお城の大広間にて。


「明日、魔王軍に総攻撃を仕掛ける。
指揮はユーリ、お前に任せる」
「親父殿、謹んでお受けします」

俺は父親である国王の前で恭しく片膝をつき
頭を下げながらも、内心冷めた気持ちでいた。

なぜなら、俺は生贄だからだ。

国王は隠しているつもりだろうが、
皆わかっている。
この戦い人間側の勝ち目はない。

そのため国王は最初から俺を捨て駒として
戦の先頭に立たせ、時間稼ぎをするつもりだ。

その間に自分や他の王子達を
安全なところに逃がす作戦だ。

国王は聖女の血を引く俺を疎ましく思っている。
他の王子達もそうだ。

聖女が王国内で、民衆にもてはやされことが気に食わないのだ。

国王が俺に指揮を任せた時、立ち並ぶ
兄弟たちはにやにやと残忍な笑みを浮かべていた。

目障りな俺が明日には魔族によって殺される。

そう、俺は明日、魔王軍と戦い死ぬのだ。

※※※



「よぉ、聖女ちゃん、よかったなぁ。
親父殿がお前に期待して総指揮を任せてくれるなんて。
うれしいよなぁ?」

広間を出た俺に第3王子と第4王子がが話しかけてくる。

「初めてだよな、お前が最高指揮官として戦場に出るのは。
びびって漏らすんじゃねーの?」

「聖女ちゃんの聖水って魔族にも効くのか?
明日試してみろよ」

ぎゃはははと下品な言葉でからかう兄弟たちに
俺はいつも通り張り付けた作り笑顔を向けた。

「そうですね、俺なんかの指揮でお兄様たちを
動かすなんて本当に恐れ多いですが、
精いっぱい頑張ります」

俺がそう言うと第三王子は何が気に入らなかったのか
俺の胸倉をつかんだ。

「てめぇっイラつくんだよ、いっつも気持ちわりぃ
笑顔張り付けて、へこへこして。
てめぇみたいなのが王族として俺たちと同じ扱いを
受けるのは吐き気がする、聖女だか何だか知らねーが
森の奥に引っ込んでお祈りでもしてればよかったんだ」

「やめろ、ムスラ」

第4王子がそれを止めると、チッと舌打ちして、
俺はそのまま乱暴に突き飛ばされた。

「それも今日で終わりだ。明日が楽しみだ」

そう捨て台詞を残し、
兄弟は満足げに笑いながら去っていった。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

完結・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら、激甘ボイスのイケメン王が甘やかしてくれました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

つぎはぎのよる

伊達きよ
BL
同窓会の次の日、俺が目覚めたのはラブホテルだった。なんで、まさか、誰と、どうして。焦って部屋から脱出しようと試みた俺の目の前に現れたのは、思いがけない人物だった……。 同窓会の夜と次の日の朝に起こった、アレやソレやコレなお話。

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

帰宅

papiko
BL
遊んでばかりいた養子の長男と実子の双子の次男たち。 双子を庇い、拐われた長男のその後のおはなし。 書きたいところだけ書いた。作者が読みたいだけです。

姫を拐ったはずが勇者を拐ってしまった魔王

ミクリ21
BL
姫が拐われた! ……と思って慌てた皆は、姫が無事なのをみて安心する。 しかし、魔王は確かに誰かを拐っていった。 誰が拐われたのかを調べる皆。 一方魔王は? 「姫じゃなくて勇者なんだが」 「え?」 姫を拐ったはずが、勇者を拐ったのだった!?

婚約破棄された悪役令息は従者に溺愛される

田中
BL
BLゲームの悪役令息であるリアン・ヒスコックに転生してしまった俺は、婚約者である第二王子から断罪されるのを待っていた! なぜなら断罪が領地で療養という軽い処置だから。 婚約破棄をされたリアンは従者のテオと共に領地の屋敷で暮らすことになるが何気ないリアンの一言で、テオがリアンにぐいぐい迫ってきてーー?! 従者×悪役令息

堕とされた悪役令息

SEKISUI
BL
 転生したら恋い焦がれたあの人がいるゲームの世界だった  王子ルートのシナリオを成立させてあの人を確実手に入れる  それまであの人との関係を楽しむ主人公  

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

処理中です...