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アランとローズ 落ちこぼれ同士
しおりを挟むローズを教室まで連れて行ってくれた親切な子爵の子息は
名をアラン子爵と言う。
「俺はアランだ。学園では有名な落ちこぼれだ。
まぁ、5年生くらい、だったかな。
だがな、この学園については誰よりも詳しいから
わかんねぇことがあったら教えてやるよ。
緊張するなって、こんな俺でも退学にならずに
なんとかなっているんだから」
彼はローズが今まで見てきた貴族、(お父様や、夜会が邸宅で開催されたとき
集まったき族たち)とは全く違う人間に感じた。
自分の恥や失敗も惜しげもなく披露して、
それを自ら笑い話にしている。
本音を隠し、他の貴族よりの粗探しをして、貶め、
自分が誰よりも優れていることだけを語る、
それが貴族だと思っていたのに。
アランは続ける。
「異国からやってきたから、最初は言葉がわからず苦労したんだ。
何度も何度も馬鹿にされた。今だって馬鹿にされているだろうが。
でも気にしないことだ。はじめからできるやつなんて誰もいない。
それにしてもあんた、しゃべらないなぁ・・・、
どうしたんだ?まだ、足が痛いか?」
アランは横抱きにしているローズを覗き込む。
二人は学園の長い長い廊下の突き当たり、保健室まで
やってきていた。
アランはガラリとローズを抱いたまま、足を使って、
保健室の扉を開ける。
誰もいない。
それはそうだ。
王立学園入学式に怪我をする間抜けなものなど
わたし以外にいるはずない。
アランは手近な白いベッドにローズを丁寧に下ろすと、
包帯やら、薬品やらを棚から探し始めた。
そして一通り持ってくると、ローズの足元で治療を
始める。
「回復の魔法は得意なんだ。でも魔法には頼りすぎないほうが
いい。あくまで人間の自然治癒力を助けるためのものでしかない。
痛み止め、くらいに思ってた方がいいぞ。
そうしないとひどい怪我も治ると思って、無茶しちまうから。
それで、死んじまったやつを知っているんだ」
緑色の光がローズの腫れ上がった足首ををふわりと包む。
足首の腫れはひき、痛みが嘘のように消えていた。
ひざまづいてアランにお礼をしようとローズが立ち上がりかけた
ところで、アランが静止をかける。
「ばか。俺の話聞いてたか?
今は痛みをとって、ちょっと捻りを正常に戻しただけで、
すぐ動かせばまた同じように怪我がぶり返すぞ。
副木と包帯で固定してやるから。
まじでお前、おとなしい令嬢かと思いきや危なっかしいな。
本当に落ち着いてくれ。
とって食いやしねぇから」
アランが治療を終えると、
もう足のどこも痛くないのに、しっかりと足が固定されて
動きづらくて不思議な感じだった。
「しばらくこのままだ。1ヶ月くらい
念のため保険医にも見てもらったほうがいいと思うぜ。
そして、もう、入学パレードも終盤だ。せっかくだし見にいくか?
お姫様に特等席を用意してやる」
またローズの話を聞かずにアランはローズを担ぎ上げた。
ローズはまたあの人混みの中に行くのは嫌だと言うように
アランの背中を小さな拳でこつこつ叩いて抗議した。
「大丈夫だ、これから行くところは俺だけの特等席だから」
アランは笑ってその抗議を流すと
学園の長く、薄暗い廊下を戻ると、階段を上へ上へと
上がっていく。
学園には誰もいなかった。
おそらく生徒も先生も皆が総出で入学式を祝っているのだろう。
外からは歓声や、聖歌隊の歌声、楽団の演奏の音が鳴り響くが
外とは切り離された学園の内側はひっそりとして静かで
心地よかった。
一人邸宅で掃除していた時間。
静かで、穏やかで、誰にも邪魔されない時間。
思いを馳せると、同時に悲しみが舞い戻ってくる。
しかし、体に感じるアランの体温のせいでそれも
霧散してしまう。
アランの体温は温かく、眠ってしまいそうだ。
人の暖かさはこんなにも安心するの。
知らなかった。
忘れていた。
やがて永遠とも思える階段が終わり、
外へと続く扉が現れる。
その場所は滅多に人が立ち入らないようで
使われなくなった机や椅子が乱雑に積み重ねられ、
埃を被っていた。
その扉を隠しているようだ。
アランは椅子や机の障害物を長い足で器用に避けると
片手で扉を開ける。
眩しさに視界が真っ白になった。
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