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処刑

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どんっ。


急に馬車が止まった。

俺は壁に強かに額をぶつけた。
レンカの方を振り向くと同じように鼻をぶつけたらしく
ちょっと涙目になって前方を睨んでいる。

外から怒鳴り声が聞こえた。

「ここで待っててくださいよ」

レンカに釘を刺してから俺は馬車を降りる。

「どうしたんだ?」

「すいません、スイラ様。この男がいきなり馬車の前に現れて」

「誰だ?」

俺は馬車の前方にいる男を睨みつけた。
男は刃渡り15センチほどの刃物をこちらに向け、
血走った目と異常な発汗が見られた。

「この…裏切者!」

男は俺を見ると金切声に近い叫びを浴びせた。

「なんだ?」

見物客が集まってくる。

「っち、面倒なことになった…、学園の式に遅れるだろ」

内心苛立ちながら、目の前の男をどう処理するか考える。
男の身なりは汚らしく、異臭が漂っている。
おそらくはただの浮浪者。
雇われた殺し屋などではなさそうだ。
ただし、油断は禁物。
もし魔力の類を扱える者ならば何をしでかすかわからない。

「…ひっ、あの馬車の中に、…いっ、いるんだろ…残虐姫が」

男は声を裏返しながら、俺に向かって問いかける。
アルコール中毒か薬中か。
明らかに正常ではない様子の男に憲兵は何をやっているんだと
心の中で悪態をつく。

「あんたの目的は?」

「あ、あいつ、あいつの国のせいで、女房と子どもが
いなくなり、お、俺も仕事をなくし、た。
復讐、復讐してやる。あの、女を殺すんだ」

「それは勇ましいな」

「あ、あんた、出てくるなって言っただろ!」

いつの間にか馬車から降りていたレンカが俺の隣に立つ。
彼女を下から睨むように見上げたが、当の彼女はどこ吹く風。

「ざ、残虐姫…!」

「そうだ、私がまほろば国の王女、レンカだ。
愚かな民よ。自らの罪を私の国のせいだと恨むなら
せめてそのまま私の手で裁いてやろう、

かかってこい」

レンカは刃物を向ける男にひるむことなく、
逆にひるませるような眼力で男を睨みつけると、
先ほど威勢よくわめいていた男はわなわなと唇を震わせた。

「お、・・・お前のせいだ、お前の」

レンカはすらりと腰の刀を抜く。

「おい、レンカ、やめ…」

「小間使いの分際で王族である私に指図するな。お前から刀の錆にしてもいいんだぞ」

昨日とは別人のように
冷めた目でこちらを見下すレンカ。

俺は本能でもう彼女は止められないと悟った。

「くそっ、くそおおおお!」

男はイノシシの如くレンカに突進してくる。
刃物の切っ先はしっかりレンカの方を向いている。

俺はレンカを守るために、口の中で術式を唱える。
しかし、それは不要だった。

彼女は蝶のように軽やかに男を交わすと、
一閃、刀を振った。

ぼとり。

そこにいた誰もが最初、何が起こったのかわからなかった。
ただ、レンカの足元にボールのような球状の物体が転がったのだ。

それは肉塊だった。
先ほどまで刃物を振り回し、わめき散らしていた男の頭だった。
そして、レンカと向かい合った男の首から上はすっぱりと綺麗に
なくなっていた。

「私に刃を向けることはすなわちこういうことだ、覚えておけ」

レンカは男の方を向いて言っていたが、おそらくは集まった民衆に
向けて言葉を発したのだろう。

突然の出来事にそこにいた誰もが呆然とし、言葉を失う。

「どういたしましたか!」

遅れてやってきた憲兵が男とレンカに目をやると、俺に話しかけてきた。
俺は素早く事情を説明し、後の処理を任せる。

その様子を見ていたレンカは刀の血をぬぐい、すぐに鞘に納める。

「行きますよ」

俺はレンカに目配せして指示すると、すぐにレンカは何もなかったかのように
馬車に乗り込んだ。
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