女装令嬢はインポな引きこもり王子とプラトニック・ラブロマンスを貫けるか

ハヤイもち

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綺麗な彼の中身は、陰鬱王子様-僕に彼を救うことはできるのだろうか-

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彼がゆっくりと目を開ける。

夜明けを告げる太陽のような金色の瞳が
またたき、そして開かれる。

「大丈夫ですか?」

彼は僕の方に顔を向けると
ぼんやりと僕に目線を合わせた。

「あ、人魚」

「ちがいます。人間です」

「ここはあの世?君は天使?」

「違います。あなたはまだ生きてます」

「えっ」

びっくりして彼がいきなり起き上がった。
自分の手を見て、顔をペタペタと触って、
それからきょろきょろと辺りを見回した。

「なんで?僕、失敗した?」

「一応言わせてもらうとここは僕の船長の船です。
海に飛び込んだあなたをここに運ばせてもらいました」

「じゃあ命の恩人…。はぁ、余計なことを」

彼は僕から視線を背けるとぼそっと呟いた。

「やっと終わると思ったのに。

…それで君は何が目的なの?
僕が王子だって知ってて助けたんでしょ。
金?地位?僕から言えば大抵のものは
用意できるよ。
はぁ、面倒だけど後に引いたらやだしね」

彼の言葉は投げやりで、卑屈で僕はだんだんと
イライラしてくる。

それに僕や僕らを意地汚い貧乏人だと決めつけたような
物言いに、そんなに沸点が高くない僕は目の前のこれが
王子だとも忘れていた。

「お前、僕の事、バカにしてんのか?」

ドスの効いた僕の声に目の前の王子が「ひぃっ」
と情けない声を上げて縮み上がった。

伊達に何年も柄の悪い漁師たちに混ざり
仕事しているわけじゃない。

「そんなもん、いるわきゃねぇだろうが。
あぁん?」

僕が彼の胸倉をつかむと、
さっき起き上がったばかりなのに、
もう彼は失神寸前だった。

「ご、ごめんなさい。すいません、許して。
暴力はだめ、痛いことしないでください。
じゃあ何が目的なの?まさか誘拐?」

「僕は、王子だからお前を助けたわけじゃない。
目の前で死にそうになってる人がいたら
誰だって助ける、そうだろう。

人の親切心を踏みにじりやがって。

王子だか何だか知らないが、
僕らをバカにしたこと絶対に許さない」

「じゃ、じゃあ、僕はどうすればいいの?」

「もう二度と海に飛び込んで死のうだなんて
思うな。海を汚すな。命を粗末にするな、以上」

そこでばっと胸倉を放してやった。
彼はしばらく呆然と僕の方を見た後、
ぶつぶつとまた一人でつぶやき始めた。

「だって、僕は生まれちゃいけなかったんだ。
今回の船旅で僕の暗殺未遂は
記念の100回目を迎えたんだ。

友達もいない。誰も信じられない。
家族だって同じだ。
みんな僕を嫌っている。

もう耐えられない。

こんなみんなに死を望まれているなら、
自分で死んだらみんな喜ぶだろ。

何も知らないくせに、余計なことを」

ぶつぶつぶつぶつとつぶやき続ける陰鬱王子は
更に僕を苛立たせる。
黙って目を閉じて眠っていたらあんなに
綺麗なのに、中身はヘタレでとても残念だ。

「悲劇のヒーロー気取か?それもいいだろう。
けど不幸自慢したって何も良いことはないだろ。
苦しいなら、それを打開するための方法を考えろよ」

「そんなの全部王子に生まれた時から
決まってた運命なんだよ。

それを僕にどうしろっていうの!?
何も知らないお気楽な漁師見習いのくせに」

「だったら、さっきお前が言ったことの中で
僕が解決できることがある。

僕がお前の友達になるし、
お前の信じられる人になる。

僕はお前が死ぬことなんて望まないし、
もし僕の目の前でお前を暗殺しようとするやつが来たら、
やっつけてやる、どうだこれで生きる気になった?」

「そうやって考えなしの貧乏人はできもしないことを
ほいほい約束するんだ。
騙されない、
絶対に騙されないからな」

「最初から信用されようなんて思ってない。
けど僕は本気だから」

「…」

僕の言葉に王子の瞳が揺らぐ。
だが、すぐに野良猫のように警戒心をあらわにした目に戻った。

「ふん、どうせその場限りの約束だ」

「僕はだいたい暇なときはこの船着き場にいるから。
体調がよくなったら家族のところまで送る」

「…いやだ」

「なんだって?」

「あそこに帰りたくない」

僕はあきれ果てた。
それでこの我がまま王子はどうするつもりだろうか。

「帰りたくないってどうするつもり?」

「僕を匿ってくれないか?」

「隣国の王子を匿っていたなんて知れたら、
僕は死罪だ。僕だけじゃない、船長だって無事じゃすまない。
君は僕を死罪にしたいの?」

「だって、…帰ったらまた」

休みは明日まで。

月曜日は学園があるから無理だけど、
使用人に連絡して身代わりになってもらえば
今日と明日、帰らなくてもギリ行けるだろうか。

「わかったよ。僕が君の警護として一緒についていく。
それならいいだろう。
ただ君の家族はこの休日が終わったら国に帰るんだろう。
だからそれまでだけど、どう?」

「わかった、よろしく」

こうして僕の休日はこの陰鬱王子に捧げることになってしまった。
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みんなの感想(3件)

イタハラ
2022.08.03 イタハラ

切れ長の目×病弱×根暗
の組み合わせが最高です!
主人公に助けられて、
これはもう惚れますね(笑)

次の投稿も楽しみにしてます!

ハヤイもち
2022.08.04 ハヤイもち

ありがとうございます。
見切り発車出発なので考えながらですが、
頑張ります!

解除
イタハラ
2022.08.02 イタハラ

新しい登場人物、とてもカッコいいです!
病弱系と切れ長の目のコンボっていいですね!
主人公との絡み合い、とても楽しみにしています!

ハヤイもち
2022.08.02 ハヤイもち

感想めっちゃうれしいです!
ありがとうございます。
頑張って更新しますね(ほわわ

解除
イタハラ
2022.08.01 イタハラ

 始めまして、あたたと言います。
比喩が上手で、地の文が面白く、楽しく読むことができました。
 これからも、投稿を楽しみにしています。

ハヤイもち
2022.08.01 ハヤイもち

わっ!すごいうれしいです。
ありがとうございます!

解除

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