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#6取引ーアンフェア

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ジャックが右下の腰あたりにしがみついている
私に視線を向ける。

その視線が怖くて、私は思わず下を向いて
見ないようにした。

頭の中に優しいジャックが化け物を見るような目で
私を見る映像が浮かんで、怖くなってぎゅっとジャックの
服の裾をつかんだ。



ふいに。


そっと私の頭の上に手を置かれる。
それはあったかいいつものジャックの手だった。

「安心しろ、ルーン」

顔をあげれない私にジャックが小声で声をかける。

その声が優しくて、暖かくて思わず喉元まで
熱いものがこみ上げてきた。

ジャックに体を寄せるようにしがみつくと、
頭をまた一撫でしてくれる。

「この娘は俺の愛娘だ。
そして俺はただのしがない薬屋だ。」

ジャックが宣言すると、襲撃者はひどい悲劇を見たように
体のそこから深い深いため息をついた。

そして体をふらふらと揺らしながら立ち上がる。

「どうやら、強引な手段で
目を覚まさせるしかないようですね」

「やる気になっているところ悪いが
あんたはこのまま憲兵に突き出させてもらう。
怪我の治療もしてやるからおとなしくつかまれ」

ジャックは襲撃者に対して降伏するように促す。
しかし、襲撃者は急に背筋を伸ばすと狂ったように
笑い出した。

そしていきなり口調が変わったように喚き散らす。

「甘い甘い!

なんて甘さなんだ。
以前からは考えられない。

あんなに冷たい目をして敵には容赦なかったお前が!
その化け物のせいで骨抜きにされたようだな。

大丈夫だ、俺が俺が元のお前に戻してやるよ、
そうじゃなければ俺がお前を一生飼ってやる。

その魔族などには渡さない」


男はそう言うと急にコートをバサッと脱いだ。

男の左肩は人間の皮膚、腕なのに、右肩は機械仕掛けの
金属の腕になっていた。

「お前のせいで利き手はやられた。
まさか左までやられるとは思っていなかったが。
しかしそのおかげで俺はこの腕を手にすることができた」

男は右腕を構えるとジャックに向けて3発鋭い小さな針のような
ものを発射した。

ジャックはいともたやすくそれを見破り、避けた。

「・・・・っあ!」

私が気づいた時にはその針が右肩に深々と突き刺さっていた。

痛いよりも先にびっくりする。

そして、すぐにその針から血管に根を張って広がっていくような
ジンジンとした痛みがぶわっと広がる。

「…ひぃぅっ」

私はこらえきれず肩を抑えて床にうずくまる。
息を口を開けて空気を入れようとしているのに
全然酸素が入ってこない。

パクパク口と勝手に口が開いて周りの酸素を必死で
取り込もうとしているのに、全く入ってこないのだ。

苦しい。
苦しい。
苦しい。
助けて、お父さん。

「ルーン!!」

慌ててジャックが私のほうを振り向いた。

ためらいなく男に背を向けて、私の肩に刺さった針を抜いた。

そして、肩部分の服を破くと、私の肌の針によって赤い穴が
空いた部分に口をつけて、血をじゅっと吸い出す。

手が震える。ぶるぶる震える手を伸ばして必死で私の穴から
血を吸い出すジャックの頭に手を添える。

「唇が紫になってきましたね。
かわいそうに。
あと1時間ほどで死ぬでしょうね」

襲撃者は高みの見物を決め込んで、
哀れな父娘をあざ笑うように
その様子を言葉にした。

「なんだ?この毒は?人間用の毒じゃないな?」

もう意識が落ちかけている私を床に横たわらせて、
額を撫でながら、解毒方法を調べるジャックは
襲撃者の男に問いかける。

「ええ、もちろん。
万が一あなたに当たったらいやですから。

それは魔族だけを殺せる特別な毒です。

そして人間用の薬しか置いていないここでは
解毒薬は存在しない」

ジャックは息を吐いた。
ふーッと瞳を閉じて、また襲撃者を見る。

「解毒薬を持っているんだな?」

襲撃者が満足そうにうなずく。

「もちろん。それを渡して
解毒する代わりに…」

「わかった。要求に従う。

ただし、俺がお前の要求に従ったら、
この娘には今後危害を加えないと
約束してくれ


「ええ、私の目的はあくまでもあなたの
目を覚まさせることです。

では、解毒薬を渡して、この娘を助けたら
今後一切この娘と関わらないと誓ってください。」

「わかった。だが約束を破ったら・・・」

「わかってますよ。
あなたの実力は重々承知しています。
たとえ武器がなくとも、あなたなら私を
簡単に殺めることができるでしょう。

約束は守ります。
私自身はその娘に何の思い入れもない

では私たちのアジトに来てください。
そこに解毒薬があります。」

男は窓から入ってきた時とは違い、
紳士らしく玄関から出ていく。

ジャックはぶるぶると震え続ける私を毛布に包んで
横抱きにした。

私の額にキスを落とす。

「絶対に助けるからな。プリンセス」
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