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#5誰もが自分は本当は何者なのか知らずに生きている
しおりを挟むそこに立っていたのはやはりジャックだった。
でも私にはそれがジャックだとすぐに認識することが
できなかった。
だって、あまりにも違うのだ。
小さい黒いリボルバー式の拳銃を構えて、ジャックは
じっと襲撃者のほうだけを見ている。
月明かりに照らされたジャックの顔は襲撃者と負けず劣らず
暗い暗い井戸の中みたいな目で怖かった。
はじめてジャックを怖いと思った。
声をかけることもためらわれて、私は下を向く。
「ルーン、こっちへ来なさい」
緊張した声音ながらも少し優しさをにじませる言い方で
私に声をかけてくれて、慌てて腰が抜けながらも這って
ジャックのほうに行くと、後ろに隠れた。
「夜更かし娘を叱るのは後だ。」
ちょっと怖い調子で言われて、
私はうなだれながらも反省する。
だって私が悪いってことはわかっている。
「どうして、ルーンを狙った?」
ジャックが未だに撃たれた左肩の痛みに
呻く男に銃口を向けたまま問いかける。
男はジャックの声に反応して顔を上げると、
痛みに脂汗を流しながら、
にやりと意地悪く笑った。
「カッコウって知ってますか?」
急に何を言い出すんだろう。
この襲撃者は頭のおかしい人間なのかもしれない。
ジャックも男の真意を測りかねているようだ。
警戒を解かずに男に問いかける。
「何が言いたいんだ?」
「いやあなたを見ていると愚かで健気で
とてもかわいらしいなと思うのですよ。
自分が育てているそれが何かも知らずに、
餌を与えて、世話をして、
素晴らしい、種族を超えた愛ですね」
襲撃者の明らかにジャックを馬鹿にしたような口調で
ジャックに語り掛ける。
私はその襲撃者に対してぐつぐつと煮えたぎるような
怒りを覚える。
それと同時に背筋からつぅーっと冷たい汗が
流れた。
「
あなたは不思議に思ったことはありませんか?
どうしてその娘を育てているのか?
誰から託されたのか?
薬屋になる前は何をしていたのか?
そしてどうしていつまでたっても娘は大きくならないのか?
」
「ジャック!聞かないで!」
私はこらえきれずジャックに向かって叫んだ。
これじゃあ、まるでまるで私が…。
なおも襲撃者はジャックだけを見て続ける。
まるで私の声も存在もすべていないかのように振る舞う。
「何も言わなくてもいいですよ。
あなたのその銃の腕も、
とっさの判断力も
ただの薬屋ではありえません。
明らかに戦いなれているものの動きだ
しかしね…。」
そこで襲撃者はやっと私のほうを向く。
その目は憎しみなのか、怒りなのか
赤く染まっているように見えた。
怖い。
明らかな殺意を持った目を向けられて
縮みあがる。
「あなたが疑問に感じるたびに
それは氷が解けて消えるように
忘れていったのでしょう?
その娘が…、
…いやその魔族がかけた魔法によって」
満月がちょうど窓の真ん中にきて、
月明かりが部屋を隅まで照らした。
机の上にある完成されたパズルを
月明かりが照らす。
そこにはジャックと私の姿があった。
いや違う。
ジャックを飲み込もうとする
恐ろしい怪物の絵が浮かび上がった。
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