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#1 わたしの大好きなお父さん。わたしのもの。わたしのもの。わたしのもの。

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「でてけ!ここに金目のものなんてねぇよ!」

私の養父は薬屋のボロい木製扉をガッと大きく開くと、
荒くれものの男たち3人をまとめて蹴っぽり出した。

時刻は午後14時。

お天道様がちょうど真上にきている。

ついさっき威勢よく店に乗りこんで騒ぎ立てた3人の荒くれものは、
ものの3分ほどで外に放り出された。

おてんとうさまはそんな子悪党どもを笑うように照らしている。

「くそっ、覚えてろ!」

荒くれもののリーダー格、派手なモヒカン頭は
養父に向かってお決まりの決め台詞をはく。

そうして、仲間のツンツン頭の金髪と、禿げたデブ男を連れて
ドブネズミみたいにそそくさと逃げて行った。

ざまぁみろだ。

私は養父の後ろに隠れながら、
逃げていく男たちに向かって「あっかんべー」
と舌を出して、馬鹿にした。

「ここも治安が悪くなったねぇ」
「大丈夫かい、ケガしていない?」

さっきまで物陰に隠れて、一部始終(悪党が店に押し入って、放り出されるまで)を
見ていた近所の人間(暇な人妻や年寄り夫婦)が養父の周りに集まってきて、
馴れ馴れしく話しかけてきた。

だから、私は慌てて養父から離れて、店のぼろ扉の前に隠れた。

近所の奴らに見えない位置で、暗い扉に背中を預けた。
ひんやりとした木の感触を感じながら、耳だけそばだてて話を聞く。

「ええ、だいじょうぶです」
「最近、ああいう荒くれものが多くて、本当にわたしの店もいつ襲われるか
わかったもんじゃないよ。ねぇ」
「本当に、旦那がいても弱っちくて役に立たないもんね、腰を抜かして隅で震えてるよ」

これはあまりよろしくない空気だ。

私は近所の奴らをあの荒くれものよりもたちが悪いと思っている。
無害そうな、優しそうな顔をして、使えるものは何でも使おうとする
欲深さを上手に隠して近づいてくる。

地面に転がっている石の下を好奇心で覗いたら、
気持ち悪い虫がうじゃうじゃしてたみたいな
眉間がぞわりとするような気持ち悪さを感じる。


扉から顔だけ出して、養父のほうを見ると、けばけばしい赤毛の人妻が
養父の腕にすがって、ひっつきながら真っ赤な唇を動かす。

「だからさぁ、あたしの店の用心棒に「ジャック!」

養父を利用しようとする汚い人妻の言葉をさえぎって、
わたしは苛立ちを隠さずに養父に向かって大声で叫んだ。

「お店の片づけ手伝って!」
「はいよ!ルーン、では失礼、うちのプリンセスがお冠だ」

養父はするりと軽やかに腕の拘束から逃れると、社交ダンスの時みたいに
ちょっとカッコつけてお辞儀をして、私のほうへすぐに来てくれた。

そうして、養父は木の重たい扉を閉める前にちょっとこちらへ向かってウィンクした。
「助かった」声には出さずに、口パクだけで私にそう伝える。

私はその様子に満足した。

私は養父-ジャックのことになると、誰よりも物知り博士になる。

例えば、ジャックは硬派で、女性が苦手。
例えば、ジャックはカッコつけだが、かなり泥臭い仕事の仕方をする。
例えば、私を撫でる手が節くれだっているけど大きくて暖かいこと。

このとおり私はジャックが好きだ。
だから、この養父っていう言い方も本当は好きじゃない。
確かに、娘みたいにかわいがられるのもいいけど、望んでいるのはそうじゃない。

でも、本当に私が成長して女になったら、ジャックは私のこと苦手になるかもしれない。
あのけばけばしい人妻を見る時みたいに、
いやなものを我慢してみるみたいな目で見られたら、
わたしはそんな目をジャックに向けられたら
生きていけない。

「なぁ、ルーン。今日の晩御飯はシチューにしような」
「うん!ちゃんと分量間違えずに作ってね、そうしないとだめなんだから」
「わかった」

だから今は、しばらくはこのままでいい。
優しい彼が大好きだから。

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