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#4おかしな時間、つじつま合わせに気づく【目的が分からない宇宙人】
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「9日ですよ」
男が尻をついた白雪のすぐ後ろで声をかける。
白雪はさぁっと血の気が引くのが分かった。
これじゃ、息子はこれから…。
「…どうして、治療するって」
「すいません。死んだ者は治療できませんでした」
はっきりと男が言う。
「だから、時間を戻してみたのです。
もしかしたらこれで助かる可能性もあるかもしれない、
わかりませんが」
「わかりました」
白雪はそれだけ聞くと理解したようにうなずいた。
奇跡は起こったのだ。
今、今ここで息子は生きている。
ベッドの上で規則正しく呼吸を繰り返す息子、圭太を見た。
白雪にとって自らの命よりも大切な存在。
温かい。
この命を絶対に失ってはいけない。
だとしたら、自分がするべきことは一つしかない。
「圭太を助けましょう、絶対に事故に遭わせないようにしなければ」
「わかりました。お手伝いします」
男が無表情で頷いた。
「圭太君が事故に遭ったのは帰宅途中の午後18時45分ごろ、
岐倉交差点付近になります。そこで我々の観測は終えました」
「まさか、君は…っ君たちはずっと圭太が事故に遭って、息絶えるまで見ていたのか?」
「ええ」
思わずカァッと頭に血が上り、こぶしを握り締めた。
この宇宙人は圭太が事故に遭ってから死ぬまで、
ずっとただただ見ていたのだ。
ただの傍観者として。
「我々は極力この星の生物活動に手を加えてはいけないと決められているのです。
今回のことはあなたの存在を鑑みての異例の措置になります。
それに圭太君は事故にあった時点で修復不可能な損傷を受けていました。
おそらく我々の技術でも治療はできないでしょう」
白雪は押し黙る。ここで押し問答を続けても、
この宇宙人を問い詰めても結局は望む答えは出ないだろう。
口をつむんで、白雪は感情を飲み下した。
「では行きましょうか、白雪教授」
「ああ」
白雪は進むしかない。
ただただ息子の命が助かると信じて。
それが誰のための道なのか、知る由もない。
「そういえば、君の名前は?」
「我々は本来、個という概念があまりありません。
だから名前もほぼないに等しいのです。
でも、そうですね。ミラと呼んでいただけるとうれしいです。
圭太君が好きな星でした」
「そうか、ミラくん。君に問いたいことがあるんだ。
どうして君はわたしにここまで力を貸してくれるんだい?
本来こんなことやってはいけないことのはずだ。
時間についてはわたしも少々勉強したことがあるから
タイムリープに伴って起こる様々な影響については知っている。
それは一つ失敗すれば一つの生命体すらも滅ぼしかねない
とてもリスクの高い行為だ。地球人からすればだけどね。
君たちの文明がどれほどのレベルかはわからないけど、
それでもタイムリープの影響というのは大きく
軽々しく行ってはいけない行為なんじゃないかと予想している。
わたしにとっては代えがたい存在だけど
君たちにとっては圭太という一人の地球人のために、
使ってくれるのがわたしには不思議なんだ。
さっきわたしの存在を考慮しているって言ってくれたけど
わたしの価値だって、君たちにしてみればそんなに大したものじゃないはずだ」
ミラは少し、考える。宇宙人で地球人よりもずっと頭がいいはずなのに、
頭で考えて望む答えを出そうとする姿は人間臭い。
「確かに、本来時間を戻すことはやってはいけないことです。
地球で言う禁忌に等しい。
しかし、どうしてでしょう。
我々としてではなく、僕としてはあなたを助けたい、あなたの望みを叶えたいのです。
その気持ちはどこからくるのか僕自身もはっきりと答えられないのですが、
やはり月並みに言えば、僕はあなたが好きだからなのでしょう」
他人事のようにミラは言う。
わたしはミラの言葉にまたどう反応していいのか困ってしまった。
「さて、そろそろこちらの『あなた』が起きだしてくる頃です。
鉢合わせしたら、つじつま合わせが大変でしょう。
そろそろ家を出てどこかでお茶でもしましょうか」
男が尻をついた白雪のすぐ後ろで声をかける。
白雪はさぁっと血の気が引くのが分かった。
これじゃ、息子はこれから…。
「…どうして、治療するって」
「すいません。死んだ者は治療できませんでした」
はっきりと男が言う。
「だから、時間を戻してみたのです。
もしかしたらこれで助かる可能性もあるかもしれない、
わかりませんが」
「わかりました」
白雪はそれだけ聞くと理解したようにうなずいた。
奇跡は起こったのだ。
今、今ここで息子は生きている。
ベッドの上で規則正しく呼吸を繰り返す息子、圭太を見た。
白雪にとって自らの命よりも大切な存在。
温かい。
この命を絶対に失ってはいけない。
だとしたら、自分がするべきことは一つしかない。
「圭太を助けましょう、絶対に事故に遭わせないようにしなければ」
「わかりました。お手伝いします」
男が無表情で頷いた。
「圭太君が事故に遭ったのは帰宅途中の午後18時45分ごろ、
岐倉交差点付近になります。そこで我々の観測は終えました」
「まさか、君は…っ君たちはずっと圭太が事故に遭って、息絶えるまで見ていたのか?」
「ええ」
思わずカァッと頭に血が上り、こぶしを握り締めた。
この宇宙人は圭太が事故に遭ってから死ぬまで、
ずっとただただ見ていたのだ。
ただの傍観者として。
「我々は極力この星の生物活動に手を加えてはいけないと決められているのです。
今回のことはあなたの存在を鑑みての異例の措置になります。
それに圭太君は事故にあった時点で修復不可能な損傷を受けていました。
おそらく我々の技術でも治療はできないでしょう」
白雪は押し黙る。ここで押し問答を続けても、
この宇宙人を問い詰めても結局は望む答えは出ないだろう。
口をつむんで、白雪は感情を飲み下した。
「では行きましょうか、白雪教授」
「ああ」
白雪は進むしかない。
ただただ息子の命が助かると信じて。
それが誰のための道なのか、知る由もない。
「そういえば、君の名前は?」
「我々は本来、個という概念があまりありません。
だから名前もほぼないに等しいのです。
でも、そうですね。ミラと呼んでいただけるとうれしいです。
圭太君が好きな星でした」
「そうか、ミラくん。君に問いたいことがあるんだ。
どうして君はわたしにここまで力を貸してくれるんだい?
本来こんなことやってはいけないことのはずだ。
時間についてはわたしも少々勉強したことがあるから
タイムリープに伴って起こる様々な影響については知っている。
それは一つ失敗すれば一つの生命体すらも滅ぼしかねない
とてもリスクの高い行為だ。地球人からすればだけどね。
君たちの文明がどれほどのレベルかはわからないけど、
それでもタイムリープの影響というのは大きく
軽々しく行ってはいけない行為なんじゃないかと予想している。
わたしにとっては代えがたい存在だけど
君たちにとっては圭太という一人の地球人のために、
使ってくれるのがわたしには不思議なんだ。
さっきわたしの存在を考慮しているって言ってくれたけど
わたしの価値だって、君たちにしてみればそんなに大したものじゃないはずだ」
ミラは少し、考える。宇宙人で地球人よりもずっと頭がいいはずなのに、
頭で考えて望む答えを出そうとする姿は人間臭い。
「確かに、本来時間を戻すことはやってはいけないことです。
地球で言う禁忌に等しい。
しかし、どうしてでしょう。
我々としてではなく、僕としてはあなたを助けたい、あなたの望みを叶えたいのです。
その気持ちはどこからくるのか僕自身もはっきりと答えられないのですが、
やはり月並みに言えば、僕はあなたが好きだからなのでしょう」
他人事のようにミラは言う。
わたしはミラの言葉にまたどう反応していいのか困ってしまった。
「さて、そろそろこちらの『あなた』が起きだしてくる頃です。
鉢合わせしたら、つじつま合わせが大変でしょう。
そろそろ家を出てどこかでお茶でもしましょうか」
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