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魔物の森で魔物を引き連れた男と出会う探索者たち
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6人ほどの男たちが薄暗い森の中を進んでいた。
ここは危険な魔獣の生息地と言われる場所で
狂暴なゴブリンやオーク、そしてキメラなどが
出没する場所だ。
この男たちは王様の命令でユニコーンの羽を
手に入れるために森に入った男達だった。
すでに三人ほどメンバーを失った彼らは、
意気消沈していた。
しかし、それでも羽を手に入れなければ、
どんなお咎めが待っているかわからない。
そのメンバーの中にはもちろんアンナの家族も
含まれていた。
「もう、無理なんじゃないか。
俺たちがユニコーンの羽を手に入れるなんて」
メンバーの一人が弱音を漏らす。
「そんなこと言うよ。
死んじまった奴らのためにも絶対に
ユニコーンの羽を手に入れなくちゃいけないんだ」
「それに何の成果もないまま国に帰ってみろ。
どんな罰が待っているか…
家族だって無事じゃすまないかもしれねぇ」
「いやだ、なんでこんなことさせられるんだ?
以前は召喚のためにこんな危険な森に行かされたことは
あったか?」
「しかし、前の召喚士は出来損ないだったという噂だし、
まともな召喚をしてこなかったのではないか?」
そんなことを言いあいながら危険な森を進んでいく。
「ここらで一休みしよう」
「そうだな、昼食にしようか」
男達がどかりと転がっている丸太や岩の上に腰を下ろした。
しかし、ここは危険な魔獣の生息地帯。
一瞬の油断が命取りとなる。
「ひぃっ! なんだこいつは!?」
いきなり岩に腰かけていた男が悲鳴を上げた。
「なんだ!どうしたんだ」
そこにいたのは全長3メートルほどの巨大な犬。
いやただの犬ではない。
頭が3つあり、その大きな口からは鋭い牙が覗き、
口元から垂れる涎は地面にシミを作る。
「逃げろぉ!」
岩に座った男に叫ぶがその男は腰が抜けて動かない。
「ちくしょう、俺はここで死ぬのか……」
その男はアンナの兄だった。
家に残してきた妹のことを思い出す。
可愛い妹。街一番の美人だと思っている。
一人広い家に残してきてしまった。
しっかり者だが、寂しい思いをしているはずだ。
だが、自分はもうここから帰れないだろう。
どうか、どうか幸せになってくれ。
兄は目を閉じた。
「ワフッ」
「あっ、見つけた?ケロ、早いな、さすがだ。
日が明るいうちに見つかってよかった」
「ちょっと待ってよ、桜先生!」
「ルキは後からゆっくりおいでと言っただろう。
君はもう魔獣には襲われないだろうから大丈夫さ」
「そうは言ってもこんな森、一人で歩きたくないよ」
緊張感のないやり取りが聞こえ、
恐る恐る目を開ける。
「…は?」
俺は目を見開いた。
ありえない。
こんなことがあっていいのか。
一人の男がこちらに向かって歩いてくる。
40代くらいだろうか。
長身で赤茶色の髪、
物腰は柔らかで紳士的だが、
猛禽類のように鋭い金色の目をしている。
いや彼の見た目などどうでもいい。
彼は肩にガーゴイルを乗せ、
左隣にはトカゲと鶏のキメラ、
更に背後にはゴブリンやオークを従えていた。
よく見ると足元にワームやスライムが
彼に甘えるようにすり寄っている。
「ケロおいで、よくやった。ご褒美だ」
ケルベロスは彼に呼ばれると
しっぽを揺らしながら走っていく。
まるで、飼い主と犬だ。
「やぁ、初めまして。
君はアンナの…お兄さん、かな?」
魔物を従えた男は、視線だけで射抜くように
真っすぐ俺を見た。
「あ、あんたは、何者なんだ?」
俺は未だ目の前の光景が信じられず、
驚きと衝撃の入り混じった声で尋ねた。
「私は桜、ただの精神科医だ」
そう言いながら肩に乗せている鳥の頭を撫でた。
「せ、せいしんか?」
耳慣れない言葉に思わず聞き返した。
「こっちではあまりメジャーな職業ではないのかな。
ただの医者だよ。ヒーラー?とでも言えばいいのか。
…それでね、私は君の妹さんに頼まれて、
この森にやってきたんだが」
そんなわけがない。
ただの医者がどうしてこうも多くの
魔物を従えられるというのだ。
「ルキ、あれを持ってこっちに来てくれるかい?」
男が後ろを向いて呼びかける。
男の陰からぴょっこり姿を現したのは
聖なる乙女の恰好をした美少女だった。
彼女が男に近づくと、蜘蛛の子を散らすように
魔物たちが男から離れていく。
それを少女は複雑そうな顔をして見送る。
「ユニコーンの羽、この人にあげればいいの?」
「うん、そうだね。その前に彼のお仲間を呼ぼうか」
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