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カルテ#21 アラフィフおじさんと美少女♂のドキドキスローライフ生活-大型哺乳類の食べ方-
しおりを挟む「成果ゼロかぁ」
「仕方ないよ。持ってきた食料で今夜はやり過ごそう」
「そうだね。また明日釣りしたいな」
ケロが荷物とともに待っている場所に行くと、
ワフッと大きな塊が私に抱き着いてきた。
「こらこら、今泥だらけだから勘弁してくれ。
君まで泥だらけになっちゃうだろ」
笑ってケロを押し返す。
しかし、ケロの口元に赤い血がついているのに気づき、
ハッと私は青くなった。
「ケロッ、まさか…!」
「おー!旨そうな鹿!すごいケロ、さすが!」
「ワフッ」
ルキの声の方を振り向くと、
そこには全長2メートルほどの大きな牡鹿が倒れていた。
やはり私たちのいた世界よりも総じて
動植物のサイズが大きい気がする。
「まぁ、大丈夫だよね、さすがに」
私はほっと安堵の息をついた。
(ケロが人間をやったのではないかと焦ってしまった)
そして、ルキとシカの方へ向かった。
鹿の首あたりに手を当てる。
「まだ生きているな。気絶させて捕まえるなんて
ケロはなかなか狩り上手だ」
「ワフッ」
「よし、それじゃあ捌こうか」
「桜先生、鹿捌けるの?」
「大丈夫、生物の解剖は慣れてるよ」
「逆に怖い!精神科医じゃないの!」
「一通りの医療技術はあるって言っただろ?」
ルキに向かってウィンクするとぞっとした顔をされた。
解せぬ。
※※※
「ルキ、君にも教えておきたいからこっちに来てくれないか?」
ルキは私が鹿の解体を行おうとすると
その場から逃げて、震えながらこっちに背を向けてしまった。
私はそんなルキを呼ぶ。
「い、いや、オイラそういうの苦手で…」
「私は君にぜひ見てほしい。
必要になる時が来るかもしれない。だめかい?」
私がそう言うとしぶしぶといった感じでルキが近寄ってくる。
まだ生きている鹿を縛って動かないように固定する。
ルキに覆いかぶさるようにして鹿を抑える。
当たり前だがまだ暖かく、生きている。
「ほらナイフを持って。私が支えるから。
最初は『血抜き』だ。これをしないと肉が臭くなってしまう。
鎖骨からナイフを入れて、頸動脈を切る。
他の部分は傷つけないように注意して…」
ナイフを入れた瞬間、びくっと鹿が震える。
ルキがナイフを落としそうになったので、慌てて支えた。
ドバっと鹿の血液が流れる。
鹿が苦しそうに呼吸するたびに血が流れていく。
流れる血液と一緒に彼の命も失われていく。
見るとルキは死にゆく鹿と同じくらいに
苦しそうな顔をして泣いていた。
「…うっ、」
「ごめんね。つらいのはわかっている。
けれどこうやって君は他の生き物の命を貰って生きていることを
知っていてほしいんだ」
だから自分を大事にしてほしい。
人の事ばかり考える優しすぎる君がこの非情な世界で
生き残っていけるように。
「毛皮を洗ってくるね。その後、解体に移ろう」
毛皮を剥いで川で丹念に洗い、汚れを落とす。
その後、内臓などの処理を終えた。
解体まで終わって、綺麗に肉を切り分けたところで、
ふっと一息ついた。
「ふぅっ、こんなものか」
久しぶりの大型哺乳類の解体に、
さわやかな疲労感とともに額を汗が伝った。
この作業をほぼ一人で行うのもかなり大変だったが、
次からはルキに手伝ってもらえるだろうか。
そう思ってルキの方を見て、これは無理そうだと思った。
彼には衝撃が強すぎたのか、木の幹の下で体育座りで固まっていた。
微動だにしない。
その顔をケロがぺろぺろ舐めては、私がおやつにとケロに渡した骨を
かじったりしている。
「いきなりはまずかったな」
そう思ったが後の祭りだ。
それにお腹もすいたし、いつまでも彼にかまっているわけにはいかない。
私はさっそく解体したての新鮮なシカ肉の調理を始めた。
「ルキ、夕食ができた。君が血抜きをした鹿だ。
とてもおいしそうだよ。さぁ、おいで」
私は火にくべて調理したシカ肉をルキに差し出した。
ルキはそれを見ると、また思い出したのか目に涙を浮かべた。
「いい…」
「そうか…君が食べないんなら私が食べるよ」
私がそう言ってシカ肉を食べようとしたとき、
「やっぱりオイラも食べる」
私の手からシカ肉をかっさらってもぐっと肉に噛みついた。
「どうだ、おいしいだろう」
「うん…うん…」
隣でボロボロ泣きながら肉を食べるルキの頭を撫でてやる。
本当に息子のようだ。
残念ながら、本当の息子たちはこんなに素直ではないが。
それも私のせいか。
彼女が早くに亡くなったのは、
私が仕事ばかりで無理をさせてしまったからだ。
大して構ってやれなかったにも関わらず、
子どもは勝手に成長した。
もしかしたら、これは私の罪滅ぼしなのかもしれない。
ふとそんなことを考えながら、二人と一匹の夜は更けていく。
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