2 / 28
カルテ#2おかしなステータス 開けてはいけないパンドラの箱
しおりを挟む
「…っ!!」
思い出すのは
脳みそに直接流れ込み広がる、
真っ赤な痛み。
そして、網膜に焼き付いた
幸せそうなマスオの笑顔だ。
殴られた衝撃が繰り返したように私を襲い、
しばらく動くことも瞼を開けるだけの
簡単な動作さえ行うことができない。
目を閉じたまま、衝撃の濁流が過ぎ去るのをじっと待ち、耐える。
おそらく私はマスオに消火器で殴られたのち、
適切な治療を受けて、ベッドに寝かされている状態だろう。
先ほどの病院内で起こった事件の顛末を振り返り、
ホッとする。
私は生きている。
そして、マスオが人殺しにならなくてよかった。
ちらりと脳裏をよぎった言葉に、
はて私は自分がここまでお人好しだったかと
自答してしまう。
殴られたせいで脳が少々損傷してしまったか?
精神科医という立場上、患者が暴れることや、治療過程で
逆上した患者から暴力を振るわれることはたびたびあった。
しかし、消火器で思いっきり殴られることなんて初めてだったから
自身の体験を受け入れるまで少し時間がかかる。
殴られたことに対する身体的な痛みもそうだが、
治療していた患者に殴られるという事実が
心を蝕んでいく。
胸の痛みがじくじくと心に広がり、腐ったりんごのように
黒く醜く形がしぼんでいくようだった。
私は愚かにもマスオを【信頼】してしまったようだ。
仲のいい友人のような友好な関係を築けいていると思った。
どうやらそれは私の全くの独りよがりだった。
マスオは私を殺したいほど憎んでいたのかもしれない。
自覚し、深く息を吸い込む。
今は、いい。
今はそれを見なくていい。
感情の波が収まるとともに、痛みも少々収まっていく。
私はゆっくりと瞼を上げた。
_____________________________________
「なんだ、ここ・・・・」
そこは大聖堂のような場所だった。
夜空のように広く大きなドーム状のホールの内装は白を基調とした
何本もの太い柱に支えられている。
側面にいくつも設置された大きなアーチ形の窓は
ステンドグラスで色付けされ、
外から入ってくる太陽の光によって
赤や青や黄色など美しい模様に輝いている。
白と黒のタイル状の床は大理石で端から端まで敷き詰められている。
そして私の周りには若い(10代後半から20代)男女が他5人転がっていた。
半径3メートルほどの円状の魔法陣が床に描かれている円の内部に
私たちはすべて集められており、床に描かれた魔法陣は私たちと
外界を隔てる幕のように白い光を放っていた。
転がっていた男女も私と同じように目が覚めたようで、
一人目を覚ましては隣の人を起こし、不思議そうに周りを見回したり、
こそこそと話し合ったりしている。
「成功いたしました!国王さま!」
男性とも女性ともとれるような中世的な声が聖堂に響く。
そちらを見ると、顔が見えないほどに紫色のローブ目深にかぶり、
更にその下に目隠しをした見るからに怪しい人間が
魔法陣の外側、境界部分に立っていた。
「うむ、よくやった召喚士よ」
年齢を感じさせるような低い声、だが威厳のある声がローブの人間(召喚士)の報告に応える。
国王と呼ばれた人物は魔法使いとは反対側、
大聖堂の奥の豪華に装飾された高い玉座の上に
どっしりと腰かけていた。
頭には黄金に輝く冠を乗せ、
赤を基調とした中世ヨーロッパの王様のような
重たげな衣装を身にまとっている。
国王の言葉に応え、
召喚しが厳かたる口調で
宣言を始めた。
「
では、召喚の儀、つつがなく進みまして、
魔王討伐のための選ばれし勇者たちここに結集せし。
異界より選ばれた勇者たち。
彼らのステータスを開示せよ。」
私どころか、ほかの魔法陣の中にいた男女5人も
全く状況がつかめていないようだった。
しかし無情にも魔法陣はさらに白い光を放ち、
やがて私たちの胸あたりでぴこんっという場違いな音が鳴った。
そちらに目をやると、ゲームのステータスバーのようなものが
自分の胸から20センチほど前あたりに宙に浮かんで表示されていた。
「弓使い、剣士、戦士、狩人、僧侶・・・・・これは」
召喚士が表示されているステータスを読み上げていく。
しかし、なぜか私の番で首をかしげて止まってしまった。
「おかしい、どうしたんだ?」
召喚士は先ほどの威勢はどうしたのか
すこし焦りをにじませる口調で私のステータスを
凝視している。
「どうしたんだ、召喚士」
その様子に国王が問いかける。
「いや、ちょっとこれは…」
「いいからその男のステータスを読み上げろ!」
焦れた国王が召喚士をせっつく。
召喚士は少し悩んだものの、
あきらめたように息を吐いて
私のステータスを読み上げ始めた。
「ステータス、…魔王の花嫁」
_____________________________________
※ちょっとした解説
私:主人公 桜幸雄
マスオ:主人公が現実世界で精神病の治療中だった男
男女5人:主人公と同じように召喚された人たち。男性3人、女性2人。
思い出すのは
脳みそに直接流れ込み広がる、
真っ赤な痛み。
そして、網膜に焼き付いた
幸せそうなマスオの笑顔だ。
殴られた衝撃が繰り返したように私を襲い、
しばらく動くことも瞼を開けるだけの
簡単な動作さえ行うことができない。
目を閉じたまま、衝撃の濁流が過ぎ去るのをじっと待ち、耐える。
おそらく私はマスオに消火器で殴られたのち、
適切な治療を受けて、ベッドに寝かされている状態だろう。
先ほどの病院内で起こった事件の顛末を振り返り、
ホッとする。
私は生きている。
そして、マスオが人殺しにならなくてよかった。
ちらりと脳裏をよぎった言葉に、
はて私は自分がここまでお人好しだったかと
自答してしまう。
殴られたせいで脳が少々損傷してしまったか?
精神科医という立場上、患者が暴れることや、治療過程で
逆上した患者から暴力を振るわれることはたびたびあった。
しかし、消火器で思いっきり殴られることなんて初めてだったから
自身の体験を受け入れるまで少し時間がかかる。
殴られたことに対する身体的な痛みもそうだが、
治療していた患者に殴られるという事実が
心を蝕んでいく。
胸の痛みがじくじくと心に広がり、腐ったりんごのように
黒く醜く形がしぼんでいくようだった。
私は愚かにもマスオを【信頼】してしまったようだ。
仲のいい友人のような友好な関係を築けいていると思った。
どうやらそれは私の全くの独りよがりだった。
マスオは私を殺したいほど憎んでいたのかもしれない。
自覚し、深く息を吸い込む。
今は、いい。
今はそれを見なくていい。
感情の波が収まるとともに、痛みも少々収まっていく。
私はゆっくりと瞼を上げた。
_____________________________________
「なんだ、ここ・・・・」
そこは大聖堂のような場所だった。
夜空のように広く大きなドーム状のホールの内装は白を基調とした
何本もの太い柱に支えられている。
側面にいくつも設置された大きなアーチ形の窓は
ステンドグラスで色付けされ、
外から入ってくる太陽の光によって
赤や青や黄色など美しい模様に輝いている。
白と黒のタイル状の床は大理石で端から端まで敷き詰められている。
そして私の周りには若い(10代後半から20代)男女が他5人転がっていた。
半径3メートルほどの円状の魔法陣が床に描かれている円の内部に
私たちはすべて集められており、床に描かれた魔法陣は私たちと
外界を隔てる幕のように白い光を放っていた。
転がっていた男女も私と同じように目が覚めたようで、
一人目を覚ましては隣の人を起こし、不思議そうに周りを見回したり、
こそこそと話し合ったりしている。
「成功いたしました!国王さま!」
男性とも女性ともとれるような中世的な声が聖堂に響く。
そちらを見ると、顔が見えないほどに紫色のローブ目深にかぶり、
更にその下に目隠しをした見るからに怪しい人間が
魔法陣の外側、境界部分に立っていた。
「うむ、よくやった召喚士よ」
年齢を感じさせるような低い声、だが威厳のある声がローブの人間(召喚士)の報告に応える。
国王と呼ばれた人物は魔法使いとは反対側、
大聖堂の奥の豪華に装飾された高い玉座の上に
どっしりと腰かけていた。
頭には黄金に輝く冠を乗せ、
赤を基調とした中世ヨーロッパの王様のような
重たげな衣装を身にまとっている。
国王の言葉に応え、
召喚しが厳かたる口調で
宣言を始めた。
「
では、召喚の儀、つつがなく進みまして、
魔王討伐のための選ばれし勇者たちここに結集せし。
異界より選ばれた勇者たち。
彼らのステータスを開示せよ。」
私どころか、ほかの魔法陣の中にいた男女5人も
全く状況がつかめていないようだった。
しかし無情にも魔法陣はさらに白い光を放ち、
やがて私たちの胸あたりでぴこんっという場違いな音が鳴った。
そちらに目をやると、ゲームのステータスバーのようなものが
自分の胸から20センチほど前あたりに宙に浮かんで表示されていた。
「弓使い、剣士、戦士、狩人、僧侶・・・・・これは」
召喚士が表示されているステータスを読み上げていく。
しかし、なぜか私の番で首をかしげて止まってしまった。
「おかしい、どうしたんだ?」
召喚士は先ほどの威勢はどうしたのか
すこし焦りをにじませる口調で私のステータスを
凝視している。
「どうしたんだ、召喚士」
その様子に国王が問いかける。
「いや、ちょっとこれは…」
「いいからその男のステータスを読み上げろ!」
焦れた国王が召喚士をせっつく。
召喚士は少し悩んだものの、
あきらめたように息を吐いて
私のステータスを読み上げ始めた。
「ステータス、…魔王の花嫁」
_____________________________________
※ちょっとした解説
私:主人公 桜幸雄
マスオ:主人公が現実世界で精神病の治療中だった男
男女5人:主人公と同じように召喚された人たち。男性3人、女性2人。
0
お気に入りに追加
104
あなたにおすすめの小説
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
聖也と千尋の深い事情
フロイライン
BL
中学二年の奥田聖也と一条千尋はクラス替えで同じ組になる。
取り柄もなく凡庸な聖也と、イケメンで勉強もスポーツも出来て女子にモテモテの千尋という、まさに対照的な二人だったが、何故か気が合い、あっという間に仲良しになるが…
愛され末っ子
西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。
リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。
(お知らせは本編で行います。)
********
上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます!
上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、
上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。
上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的
上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン
上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。
てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。
(特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。
琉架の従者
遼(はる)琉架の10歳上
理斗の従者
蘭(らん)理斗の10歳上
その他の従者は後々出します。
虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。
前半、BL要素少なめです。
この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。
できないな、と悟ったらこの文は消します。
※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。
皆様にとって最高の作品になりますように。
※作者の近況状況欄は要チェックです!
西条ネア
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる