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カルテ#1その男はどうして医者を襲ったのか?
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視界が真っ赤に染まった。
頭の後ろ側、後頭部に突然衝撃を受けた。
0.1秒ほどのの冷たさ、
体は衝撃により、前方に倒れ、
カアッと鋭い激しい痛みが頭の後ろから
一瞬にして真っ赤に広がっていく。
「ああああああ!!!」
「やだぁああ、やだぁああ」
「うぉおおおおお!」
終わらない。激しい鈍痛。
何度も何度も殴られているような痛みの波が何度も何度も
脳みそを内側から破壊していく。
視界がショックのためか、ちかちかと黒や血管の色が混ざったような汚い色に
染まる中で、耳だけが非常に詳細に周りの音を拾う。
音だけでまさにそこは地獄だとわかった。
一人の人間が叫びだす声に反響して、
ほかの幾人もの人間が共感して、共鳴して
叫びが、感情が広がっていく。
それは
恐怖だ。
「はやく!早くそいつを抑えろ!」
「消火器を取り上げて!」
「大丈夫ですか!桜さん!聞こえていますか!」
「鎮静剤を持ってきなさい!」
「早く!早く!」
「ほかの患者を避難させて!、急いで!」
ほかの職員や看護師などが事態を対処しようと
さらに怒号が飛び交う。
バタバタと無機質なタイルの床を走り回る幾人もの足音。
振動が頬をつけた床から、直接伝わってくる。
横向きの視界で左側だけが一瞬鮮明に映る。
男が立っていた。
患者用の簡易な青い衣服を身にまとい、
手には真っ赤な消火器が握られている。
消火器からぽたりと私の一部だったものが垂れた。
赤い液体。
すぐにその男はほかの看護師が3人がかりで抑える。
看護師の拘束に対し男は全く抵抗しなかった。
すぐに真っ赤な消火器も取り上げられる。
その男は何も見ていなかった。
いや、その男は私だけを見ていた。
にこり。
それは確かに笑ったように見えた。
それはとても幸せそうな笑顔だった。
_____________________________________
マスオ、という男だった。きっと偽名だ。
私(精神科医で医院長)の患者として
この病院【桜こころのクリニック】入院し、
そして私のことを消火器で殴った男だ。
この男について少し、カルテを見せよう。
そしたら経緯が分かりやすくなるはずだ。
保険証も持っていない。
運転免許証もマイナンバーカードも
パスポートもクレジットカードも
とにかく個人を証明するものを何一つ持っていなかった。
それどころか財布もない。
マスオが持っている持ち物は
キャラクターのお菓子を買ったときにおまけとしてついてくるような
おもちゃのメダルが大量に入った袋と
装飾が施された小型のサバイバルナイフのようなもの
この二つだけだった。
マスオは街中で通行人より通報され、精神病患者として緊急入院させられたのち、
この【桜こころのクリニック】に移送された。
意識や受け答えははっきりしているが、
妄想や空想と現実の世界の区別がついていない様子が見られ、
統合失調症患者と認定された。
以下はマスオと私のやり取りになる。
「君はどこから来たの?」
「ここではない。我の世界の話をするとなると長くなるから
またのちの機会にしよう」
「わかった。また聞かせてね。君のご職業は?
今まで何をしていたか教えてくれるかい?」
「たくさんの群衆をすべて世界を恐怖に陥れる魔王だ」
「そうか、周りに人がいっぱいいて責任ある立場だったんだね。
ご家族や連絡の取れる知人の方はいらっしゃる?」
「すべて置いてきた。ここへは一人で来たのだ」
この調子だ。
面談に対し、それなりに協力的ではあるものの、
妄想がひどい。
「わかった。これからこうやって数日に一度
君とお話する時間を取りたいと思っているんだけど
大丈夫かな」
「うむ。貴様はなかなか物分かりがいいようだ。
我が直々に時間を割いて、貴重な知恵を伝授してやろうではないか」
こうして、最初の面談は終わった。
私の印象では、この患者の病気は根深いものがある。
妄想が現実に深く入り込みすぎており、
おそらくこのままであれば、私生活さえ危ういだろう。
突然発症したというよりは、幼少期からの強いトラウマや
妄想が形になって表れたようだ。
私はマスオのカルテを再び見てため息をついてしまった。
血色は悪いが、若くてモテそうな男なのに
非常にもったいない。
精神の治療は自分と向き合う、または目を背けていた現実と
向き合うとてもつらい作業だ。
幼少期から長く続いている妄想を断ち切り、
これから現実を生きることができるかどうかは
もちろん私の治療の腕もあるが、患者の心にかかっている。
これは非常に長丁場になりそうだ。
そう確信した。
_____________________________________
※ちょい解説
私:主人公(桜幸雄)
桜こころのクリニック の院長であり、精神科医。
年齢 46歳
性別 男性
落ち着いて穏やかな雰囲気の男性。治療にあたっていた患者に消火器で殴られた。
マスオ:序盤は’男’表記
身元不明の男性。
年齢 推定20後半から30歳と予想される
通報時は上下黒い服を着ており、所持しているものはおもちゃのコインとサバイバルナイフのようなもの。
以下、マスオの【桜こころのクリニック】入院経緯
歩道で通行人を突き飛ばし、「無礼者!我は魔王なるぞ」と突然大声で叫び、
持っているサバイバルナイフで通行人を刺そうとした。
警察に取り押さえられ事情聴取を受けるも、妄想がひどくまともな取り調べが難しいため
精神病患者と診断され、急遽、【街の総合病院】に緊急入院させられた。
三日後、【総合病院】から連絡があり、患者の希望(というよりは総合病院はすぐに病床を空けたいため)
桜こころのクリニックに転移させられ、そこで入院することとなった。
病代は安定しており、ほかの患者や職員に対しても友好的で
食事についても問題なし。
相変わらず妄想が激しい。
頭の後ろ側、後頭部に突然衝撃を受けた。
0.1秒ほどのの冷たさ、
体は衝撃により、前方に倒れ、
カアッと鋭い激しい痛みが頭の後ろから
一瞬にして真っ赤に広がっていく。
「ああああああ!!!」
「やだぁああ、やだぁああ」
「うぉおおおおお!」
終わらない。激しい鈍痛。
何度も何度も殴られているような痛みの波が何度も何度も
脳みそを内側から破壊していく。
視界がショックのためか、ちかちかと黒や血管の色が混ざったような汚い色に
染まる中で、耳だけが非常に詳細に周りの音を拾う。
音だけでまさにそこは地獄だとわかった。
一人の人間が叫びだす声に反響して、
ほかの幾人もの人間が共感して、共鳴して
叫びが、感情が広がっていく。
それは
恐怖だ。
「はやく!早くそいつを抑えろ!」
「消火器を取り上げて!」
「大丈夫ですか!桜さん!聞こえていますか!」
「鎮静剤を持ってきなさい!」
「早く!早く!」
「ほかの患者を避難させて!、急いで!」
ほかの職員や看護師などが事態を対処しようと
さらに怒号が飛び交う。
バタバタと無機質なタイルの床を走り回る幾人もの足音。
振動が頬をつけた床から、直接伝わってくる。
横向きの視界で左側だけが一瞬鮮明に映る。
男が立っていた。
患者用の簡易な青い衣服を身にまとい、
手には真っ赤な消火器が握られている。
消火器からぽたりと私の一部だったものが垂れた。
赤い液体。
すぐにその男はほかの看護師が3人がかりで抑える。
看護師の拘束に対し男は全く抵抗しなかった。
すぐに真っ赤な消火器も取り上げられる。
その男は何も見ていなかった。
いや、その男は私だけを見ていた。
にこり。
それは確かに笑ったように見えた。
それはとても幸せそうな笑顔だった。
_____________________________________
マスオ、という男だった。きっと偽名だ。
私(精神科医で医院長)の患者として
この病院【桜こころのクリニック】入院し、
そして私のことを消火器で殴った男だ。
この男について少し、カルテを見せよう。
そしたら経緯が分かりやすくなるはずだ。
保険証も持っていない。
運転免許証もマイナンバーカードも
パスポートもクレジットカードも
とにかく個人を証明するものを何一つ持っていなかった。
それどころか財布もない。
マスオが持っている持ち物は
キャラクターのお菓子を買ったときにおまけとしてついてくるような
おもちゃのメダルが大量に入った袋と
装飾が施された小型のサバイバルナイフのようなもの
この二つだけだった。
マスオは街中で通行人より通報され、精神病患者として緊急入院させられたのち、
この【桜こころのクリニック】に移送された。
意識や受け答えははっきりしているが、
妄想や空想と現実の世界の区別がついていない様子が見られ、
統合失調症患者と認定された。
以下はマスオと私のやり取りになる。
「君はどこから来たの?」
「ここではない。我の世界の話をするとなると長くなるから
またのちの機会にしよう」
「わかった。また聞かせてね。君のご職業は?
今まで何をしていたか教えてくれるかい?」
「たくさんの群衆をすべて世界を恐怖に陥れる魔王だ」
「そうか、周りに人がいっぱいいて責任ある立場だったんだね。
ご家族や連絡の取れる知人の方はいらっしゃる?」
「すべて置いてきた。ここへは一人で来たのだ」
この調子だ。
面談に対し、それなりに協力的ではあるものの、
妄想がひどい。
「わかった。これからこうやって数日に一度
君とお話する時間を取りたいと思っているんだけど
大丈夫かな」
「うむ。貴様はなかなか物分かりがいいようだ。
我が直々に時間を割いて、貴重な知恵を伝授してやろうではないか」
こうして、最初の面談は終わった。
私の印象では、この患者の病気は根深いものがある。
妄想が現実に深く入り込みすぎており、
おそらくこのままであれば、私生活さえ危ういだろう。
突然発症したというよりは、幼少期からの強いトラウマや
妄想が形になって表れたようだ。
私はマスオのカルテを再び見てため息をついてしまった。
血色は悪いが、若くてモテそうな男なのに
非常にもったいない。
精神の治療は自分と向き合う、または目を背けていた現実と
向き合うとてもつらい作業だ。
幼少期から長く続いている妄想を断ち切り、
これから現実を生きることができるかどうかは
もちろん私の治療の腕もあるが、患者の心にかかっている。
これは非常に長丁場になりそうだ。
そう確信した。
_____________________________________
※ちょい解説
私:主人公(桜幸雄)
桜こころのクリニック の院長であり、精神科医。
年齢 46歳
性別 男性
落ち着いて穏やかな雰囲気の男性。治療にあたっていた患者に消火器で殴られた。
マスオ:序盤は’男’表記
身元不明の男性。
年齢 推定20後半から30歳と予想される
通報時は上下黒い服を着ており、所持しているものはおもちゃのコインとサバイバルナイフのようなもの。
以下、マスオの【桜こころのクリニック】入院経緯
歩道で通行人を突き飛ばし、「無礼者!我は魔王なるぞ」と突然大声で叫び、
持っているサバイバルナイフで通行人を刺そうとした。
警察に取り押さえられ事情聴取を受けるも、妄想がひどくまともな取り調べが難しいため
精神病患者と診断され、急遽、【街の総合病院】に緊急入院させられた。
三日後、【総合病院】から連絡があり、患者の希望(というよりは総合病院はすぐに病床を空けたいため)
桜こころのクリニックに転移させられ、そこで入院することとなった。
病代は安定しており、ほかの患者や職員に対しても友好的で
食事についても問題なし。
相変わらず妄想が激しい。
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