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優しい時間 8
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「そう。じいちゃまの部屋にあったから……」
『目についたから使った』と続けたいのだろうランくんは、フリストさんの……いや、まとめて大人達の反応が怖いのか、再び小さくごめんなさいと呟いた。
「いや、ああ」
何らかの要因で置いてきた鏡の存在を使われたことで思い出したのか、フリストさんが言葉に詰まってしまい、何をどう伝えて良いのか判らないのか整理できないのか、それとも、答えが出来ているからこその沈黙なのか、どちらともなのか、むむと眉間にシワを寄せていた。
ため息を出してしまいそうな気分だが、このままだと子供達は精神的につぶれてしまうと判断し、安心できるようにアルゴスくんとマルケスくんの頭を撫で、鏡の向こうのランくん、リーンくんには笑顔を見せて、「貴方の事が大好きです」を伝えた。
本当は抱き締めたい。
でも、物理的にそれが出来ない。
でも、しなければいけない。
愛情を彼等に態度で示さなければ、彼等はへなちょこどころか嫌な大人になってしまう。
そんなジレンマに襲われた私の意識を奮い立たせてくれたのは、手の届く子供たち、アルゴスくんとマルケスくんという暖かな存在だ。
「あったからと勝手に使ったのが悪いことだと、もう、ランくんとリーンくんはお勉強したから謝れたんだよね」
「「うん!!」」
安心させるために浮かべた笑顔はだけども、少し困ったような色を宿してしまったかもしれないが、二人に言えば、揃って大きく首を縦に振ってくれた。
そうだね。
ランくんとリーンくんはなにが悪いか判ってる。
子供は良いことも悪いことも覚え、吸収する力は早い。
私は『子は親の鏡』とは『子供は見た物を善悪無く学び、覚える。だからこそ、善悪を教え、導く。
それが子供たちに成長を促す。
ただし、子供自身で答えを導かせなければダメだ。
親はいずれ先に死ぬのだから、都合の良いように操縦していては子供の未来が無い』という先人からの教えと戒めだと解釈している。
自分でも乱暴な考えだと思うが、『操縦者の消えた人工知能の付いたラジコン型ロボット』に第三者がいきなり「あなたは自由だから、思うままに生きなさい」と言った時、そのロボットに浮かぶ表情は果たして歓喜だろうか?
私は違うと思う。
声をかけた第三者も又、自分の言動が素晴らしいものだと信じているだろうが、『操縦者の意志が絶対』と思って生きてきたロボットに浮かぶのは【困惑】しかないと思う。
そう。操縦者のいない事からの不安と第三者の話す『自由とはなんだ?』という二重の混乱である。
何故なら、ロボットにとって命令を与えられ、指示をあおぐ今までが常識であり、第三者の話すそれは理解できないもの、すなわち非常識でしかない。
そんな右も左も判らぬ状態で「自由と言われても困る」というのが当たり前だろう。
だからこそ、子供達が要らない混乱を胸に抱くことがないように、自分の頭で考えることが出来るように教育するのだ。
あ"~。
距離がもどかしい!!
本当はこういう不安な状態の時だからこそ抱き締めて、「あなたを見ています」と伝えたい。
でも、無理だからこそ!!
「「わわわ~」」
営業モードではなく、本心から出る表情を浮かべれば、両国の子供たちはもちろん、何故か大人達から溜め息に似た「ほぅ」という音が漏れた。
「そうだね。でも、怒られると思ってもそれをしたのは、優しくて素敵な考えからだよね。その、人を思いやる心は良いことだよ。これからもその気持ちを大切に育てようね」
「「うん」」
私が言うと、ランくんとリーンくんは、不安に揺れていた瞳から一転、揃って力強く頷いてくれたことに力を得た私は続ける。
「でも、やっちゃいけないことをしたのはダメ。大人がダメっていう時はちゃ~んと理由があるの。その理由も一緒に聞いて、なんでダメなのか考え、覚えていこう」
「「うん」」
子供たちの目に強い力が宿った。
「俺たちも一緒にお勉強する」
「いっしょにカッコいいオトナになろ?」
「「うん!!」」
アルゴスくんとマルケスくんも、置いていかれると思ったのか違うのか、ランくんとリーンくんにお伺いをたてていた。
聞かれた子供たちは間髪入れずに嬉しそうに「いっしょに!!」と頷いていて、微笑ましく、心がポカポカしていくようで教育とは、道徳とはなにかを自分達で学んでいく四人を導けることを光栄に思う。
「どうすれば良かったかわかるかな?」
「待ってる、か?」
「うん。そうかも」
どこか自信がないようでランくんとリーンくんは不安に言葉と視線を揺らしてアルゴスくんとマルケスくんに助けを求め、「アルゴス、マルケスはわかる?」と聞かれた二人は「う~ん」と唸りながら、頭を働かせているようだ。
「ん~。聞くのはどうだ?」
「そうだね~。こんなのしたいけど、ど~う?って、大人に聞くのは良いかも~」
「「お~」」
「スゴいな~。アルゴスもマルケスも」
「うん!スゴイね!」
「ママ!ママがスゴいの!俺たちは違うぞ」
私はアルゴス君とマルケス君に鏡を託すと、オーシャンの大人たちへキツい視線を飛ばした。
「後でお時間頂きますね」
大人達は両国共に、私の視線に震え上がっていたと後からシュリさんにこそっと耳打ちを受けることになるとは、思ってもみなかった。
『目についたから使った』と続けたいのだろうランくんは、フリストさんの……いや、まとめて大人達の反応が怖いのか、再び小さくごめんなさいと呟いた。
「いや、ああ」
何らかの要因で置いてきた鏡の存在を使われたことで思い出したのか、フリストさんが言葉に詰まってしまい、何をどう伝えて良いのか判らないのか整理できないのか、それとも、答えが出来ているからこその沈黙なのか、どちらともなのか、むむと眉間にシワを寄せていた。
ため息を出してしまいそうな気分だが、このままだと子供達は精神的につぶれてしまうと判断し、安心できるようにアルゴスくんとマルケスくんの頭を撫で、鏡の向こうのランくん、リーンくんには笑顔を見せて、「貴方の事が大好きです」を伝えた。
本当は抱き締めたい。
でも、物理的にそれが出来ない。
でも、しなければいけない。
愛情を彼等に態度で示さなければ、彼等はへなちょこどころか嫌な大人になってしまう。
そんなジレンマに襲われた私の意識を奮い立たせてくれたのは、手の届く子供たち、アルゴスくんとマルケスくんという暖かな存在だ。
「あったからと勝手に使ったのが悪いことだと、もう、ランくんとリーンくんはお勉強したから謝れたんだよね」
「「うん!!」」
安心させるために浮かべた笑顔はだけども、少し困ったような色を宿してしまったかもしれないが、二人に言えば、揃って大きく首を縦に振ってくれた。
そうだね。
ランくんとリーンくんはなにが悪いか判ってる。
子供は良いことも悪いことも覚え、吸収する力は早い。
私は『子は親の鏡』とは『子供は見た物を善悪無く学び、覚える。だからこそ、善悪を教え、導く。
それが子供たちに成長を促す。
ただし、子供自身で答えを導かせなければダメだ。
親はいずれ先に死ぬのだから、都合の良いように操縦していては子供の未来が無い』という先人からの教えと戒めだと解釈している。
自分でも乱暴な考えだと思うが、『操縦者の消えた人工知能の付いたラジコン型ロボット』に第三者がいきなり「あなたは自由だから、思うままに生きなさい」と言った時、そのロボットに浮かぶ表情は果たして歓喜だろうか?
私は違うと思う。
声をかけた第三者も又、自分の言動が素晴らしいものだと信じているだろうが、『操縦者の意志が絶対』と思って生きてきたロボットに浮かぶのは【困惑】しかないと思う。
そう。操縦者のいない事からの不安と第三者の話す『自由とはなんだ?』という二重の混乱である。
何故なら、ロボットにとって命令を与えられ、指示をあおぐ今までが常識であり、第三者の話すそれは理解できないもの、すなわち非常識でしかない。
そんな右も左も判らぬ状態で「自由と言われても困る」というのが当たり前だろう。
だからこそ、子供達が要らない混乱を胸に抱くことがないように、自分の頭で考えることが出来るように教育するのだ。
あ"~。
距離がもどかしい!!
本当はこういう不安な状態の時だからこそ抱き締めて、「あなたを見ています」と伝えたい。
でも、無理だからこそ!!
「「わわわ~」」
営業モードではなく、本心から出る表情を浮かべれば、両国の子供たちはもちろん、何故か大人達から溜め息に似た「ほぅ」という音が漏れた。
「そうだね。でも、怒られると思ってもそれをしたのは、優しくて素敵な考えからだよね。その、人を思いやる心は良いことだよ。これからもその気持ちを大切に育てようね」
「「うん」」
私が言うと、ランくんとリーンくんは、不安に揺れていた瞳から一転、揃って力強く頷いてくれたことに力を得た私は続ける。
「でも、やっちゃいけないことをしたのはダメ。大人がダメっていう時はちゃ~んと理由があるの。その理由も一緒に聞いて、なんでダメなのか考え、覚えていこう」
「「うん」」
子供たちの目に強い力が宿った。
「俺たちも一緒にお勉強する」
「いっしょにカッコいいオトナになろ?」
「「うん!!」」
アルゴスくんとマルケスくんも、置いていかれると思ったのか違うのか、ランくんとリーンくんにお伺いをたてていた。
聞かれた子供たちは間髪入れずに嬉しそうに「いっしょに!!」と頷いていて、微笑ましく、心がポカポカしていくようで教育とは、道徳とはなにかを自分達で学んでいく四人を導けることを光栄に思う。
「どうすれば良かったかわかるかな?」
「待ってる、か?」
「うん。そうかも」
どこか自信がないようでランくんとリーンくんは不安に言葉と視線を揺らしてアルゴスくんとマルケスくんに助けを求め、「アルゴス、マルケスはわかる?」と聞かれた二人は「う~ん」と唸りながら、頭を働かせているようだ。
「ん~。聞くのはどうだ?」
「そうだね~。こんなのしたいけど、ど~う?って、大人に聞くのは良いかも~」
「「お~」」
「スゴいな~。アルゴスもマルケスも」
「うん!スゴイね!」
「ママ!ママがスゴいの!俺たちは違うぞ」
私はアルゴス君とマルケス君に鏡を託すと、オーシャンの大人たちへキツい視線を飛ばした。
「後でお時間頂きますね」
大人達は両国共に、私の視線に震え上がっていたと後からシュリさんにこそっと耳打ちを受けることになるとは、思ってもみなかった。
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