上 下
68 / 269

国の名前と取り巻く環境 7

しおりを挟む
「ミーナちゃん、三つの国で戦争やきな臭い話は無ぇんだ。そこは心配すんな」
「はい」
 だが、断言されたがゆえに疑問が懸念となる。何故、母なる森が始祖さまへ私の所へ行けと言ったのか。
「知識を共有している始祖様にも母なる森の真意は判らないのですか?」
「あぁ。悪いな。ミーナちゃん。俺は知識は共有しているけど、意識までは共有してないんだ」
「「「「あ」」」」
 目から鱗な説明に、何人かの呟きとハモった。
 そうだ。森は森、始祖様は始祖様として存在した上で知識を共有しているからこそ、個人として始祖様は自由に発言し、行動出来るのだ。強いて言えば、フォレスト限定のリアルタイムで補足追加出来る辞書を共有しているにすぎない。一人納得していると、つんっと服を引っ張られて視線をアルゴス君に向ける。
「どうしたの?」
「あの、な?ママ、聞いても良い?」
「もちろん」
 ぎこちなくはあるだろうが、笑顔を浮かべて答えるとほっと安心したように子供達が口を開いた。
「きょーゆーってなんだ?」
「意識と知識はどう違うの?」
 マルケス君のは、難しい質問だな~。
 脳みそをフル回転させつつ先ずはアルゴス君の質問から答える。
「共有は自分だけでなく誰かと一緒に何かを使ったり守ったりする事だよ」
「じゃ、今、俺達とママは、この椅子をきょーゆーしてるって事?」
「そう!!良く分かったね~。アルゴス君、凄い!!」
 頭を撫で回すと嬉しそうに笑ってくれるが、ハッと表情を引き締めた。
「マルケスは?」
「もちろん良い子だよ?二人とも良い子」
 不安そうなアルゴス君の問い掛けにすぐに答えると、彼はふにゃりと微笑んで私の膝から椅子へと移り、マルケス君に奨めた。
「順番こ!!マルケス、良いよ」
「アルゴス、ありがとう~!!」
 いそいそと私の膝に座ったマルケス君はにっこりと笑った。譲り合いが出来る子供達の頭を私は両手で撫で回した。
「順番こが出来るアルゴス君もマルケス君もとっても偉い!!すごく良い子だよ」
「「きゃ~!!」」
 子供達がはしゃぎ歓声をあげる姿を男性陣は微笑ましげに見ている。
「ママ?違いは?」
「ちょっと難しいよ?意識はこうやってお喋りしたり自分で動いて考えられる事、かな?知識はいろんなお勉強して溜めるもの、だよ」
「意識は、寝たふりだとあるけど、寝てたら無いって思っても良い?」
「そう!!マルケス君、すごい!!難しいのに良く分かったね!!」
「さっすが、マルケスッ!!俺、わかんね~」
 アルゴス君にも褒められたマルケス君は、にっこり笑いながら誇らしげに胸を反らしている。
「じゃぁ、じ~じはお勉強しなくても頭良いってことなの?」
「じ~じ、ずるいっ!!俺たちもお勉強したくないっ!!」
 マルケス君の疑問に、アルゴス君が始祖様に対して抗議の声を上げた。困ったな~と言う声で二人に説いてみる。
「どうしてもお勉強したくないなら、しなくても良いけど、そうすると大人になれないんじゃない?」
「「だって、じ~じ……」」
 子供達は納得出来ないのかしたくないのか、恨めしそうに始祖様に視線を向ける。
「アルゴス君とマルケス君は大人?」
「「子供」」
「そうだね。だから大人になる為にお勉強してるんだもんね。始祖様は?」
「「大人。あ!!」」
 気付いてくれたようで子供達は目を丸くしたまま、ぱちぱちと瞬きした。
「そう、始祖様はいっぱいいっぱいお勉強して、大人になってから始祖様になったんだよ?ズルしたわけじゃないね~」
「「はい!! じ~じ、狡いって言ってごめんなさい!!」」
「気にすんな~。つか、アルゴスもマルケスも、良い子レベル上がってんじゃん」
 始祖様の言葉に子供達は「ぇへへ~」と照れ臭そうに笑っている。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

婚約者の幼馴染?それが何か?

仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた 「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」 目の前にいる私の事はガン無視である 「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」 リカルドにそう言われたマリサは 「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」 ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・ 「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」 「そんな!リカルド酷い!」 マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している  この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」 「まってくれタバサ!誤解なんだ」 リカルドを置いて、タバサは席を立った

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】番を監禁して早5年、愚かな獣王はようやく運命を知る

恋愛
獣人国の王バレインは明日の婚儀に胸踊らせていた。相手は長年愛し合った美しい獣人の恋人、信頼する家臣たちに祝われながらある女の存在を思い出す。 父が他国より勝手に連れてきた自称"番(つがい)"である少女。 5年間、古びた離れに監禁していた彼女に最後の別れでも伝えようと出向くと、そこには誰よりも美しく成長した番が待ち構えていた。 基本ざまぁ対象目線。ほんのり恋愛。

【完結】お父様に愛されなかった私を叔父様が連れ出してくれました。~お母様からお父様への最後のラブレター~

山葵
恋愛
「エリミヤ。私の所に来るかい?」 母の弟であるバンス子爵の言葉に私は泣きながら頷いた。 愛人宅に住み屋敷に帰らない父。 生前母は、そんな父と結婚出来て幸せだったと言った。 私には母の言葉が理解出来なかった。

こちらの世界でも図太く生きていきます

柚子ライム
ファンタジー
銀座を歩いていたら異世界に!? 若返って異世界デビュー。 がんばって生きていこうと思います。 のんびり更新になる予定。 気長にお付き合いいただけると幸いです。 ★加筆修正中★ なろう様にも掲載しています。

処理中です...