上 下
64 / 269

国の名前と取り巻く環境 3

しおりを挟む
「始祖様?ミーナ様恋しさだけにいらっしゃったのですか?」
 能面のような無表情でディーバさんが問う。おそらくあれは、他人に内情を読ませない為だろう。
「そんなわけな~いじゃ~ん」
 隣に座るアルゴス君の頭をぺしぺしと軽く叩きながら答える始祖様に、ディーバさんは漫画の描写のように顔に青筋をたてた。それはそうだろう。真面目に聞いているのに茶化して返されれば面白いはずがない。
「始祖様!!」
 エリゴスさんが若干ヒステリックに叫ぶ。さすが直情の人だなぁと斜め上の事を思っていると、始祖様に呼ばれた。
「ミーナちゃん」
「はい」
「ミーナちゃんに帰る意志は無いんだな?」
「はい」
 打って変わった真剣な始祖様の声音に、私も静かに答える。
「アルゴスやマルケスはともかくとして、お前ら王族もミーナちゃんが永住する事を認めたのか?」
「「「「はい」」」」
 王様もディーバさんもソルゴスさんも、なんとエリゴスさんも静かに、だが、きっぱりと頷いた。
「なら、完全にフォレストとミーナちゃんは結ばれたな」
 小さく頷いた始祖様の顔には優しい笑みが浮かんでいた。王様達もほっとしたような柔らかい雰囲気になっている。
 私と結ばれたフォレスト直訳:森さんってだれ?と思ってしまったそれが口から零れた。
「フォレストさんとはどなたでしょうか?」
 私の言葉に皆がキョトンとした顔を見せた。思わず小首を傾げると、けたたましい程の始祖様の笑い声と申し訳なさそうな王様の声が重なった。
「どなたって!! ぶひゃひゃひゃ マジ!? ミーナちゃん、マジか~!?」
「すまん。ミーナ、すっかり説明したと思いこんでいた」
 始祖様の爆笑具合から、フォレストは文字通りの意味なのだろうかと考えていた私の膝にアルゴス君が飛び乗ってきた。
「「フォレストは、ここだよ!!」」
「え?」
「この国の名前です。この世界は大きく三国で統治していて、それぞれ、母と戴く物の名前を使っております。フォレスト、ヴォルケーノ、オーシャンとなっております」
 戸惑いの声を上げた私にディーバさんが補足説明してくれた。
「王族が生まれてくる場所を国名にしているのでしょうか?」
「はい。その通りです」
 その通り!?オーシャンは海で、ヴォルケーノって火山でしょ!?溺れたり、丸焦げなんてないの!?いや、国として成り立ってんだから大丈夫なのか?
 一人でパニックに陥っていると、アルゴス君が頬に手を伸ばして優しく撫でてくれる。
「ありがとう」
「ぇへへ!!どういたしまして!!ママのお膝抱っこ、ありがとうだから!!」
 アルゴス君は嬉しそうに笑っているが、争奪戦を繰り広げてきたマルケス君は平気なのだろうかと聞いてみる。
「マルケス君はお膝抱っこは良いの?」
「はいっ!!前は僕がお膝抱っこしてもらったから良いの~。順番こするから、ママはムキムキにならないでね?」
 ちょっぴり不安そうに答えてくれるマルケス君に頷いていると、事情を聞いたらしい始祖様が再び爆笑し始めた。そんな始祖様をサラリと流したディーバさんが私の疑問を先回って答えてくれる。
ヴォルケーノ火山では王族はマグマの中に入っても平気ですし、同様にオーシャンでも王族は溺れる事はありません」
「説明、ありがとうございます」
 礼を言った私にディーバさんは微笑んでくれる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~

丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。 一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。 それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。 ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。 ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。 もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは…… これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

こちらの世界でも図太く生きていきます

柚子ライム
ファンタジー
銀座を歩いていたら異世界に!? 若返って異世界デビュー。 がんばって生きていこうと思います。 のんびり更新になる予定。 気長にお付き合いいただけると幸いです。 ★加筆修正中★ なろう様にも掲載しています。

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

処理中です...