上 下
6 / 269

運命の出会い 6

しおりを挟む
「我々は女の腹からは産まれないのだ」
 はい!?
 え!?は!?女性の腹から生まれ落ち落ちないって、この世界では男性が出産するの!?
 面白そうに見つめる王様の態度から、私が表情をコントロール出来ていない事を悟る。
 営業時には自分の表情を完璧にコントロールしていると自負しているだけに、思っている以上に疲れている事を痛感させられる。腹の探り合いの最中に表情がストレートに出る事は命とりだ。迂闊な発言で痛くもない腹を探られない為にもと、敢えて口をつぐむ。
 黙り込んだ私に対し、理解が出来なかったと思ったのか、別の思惑があるのか、ディーバさんが補足説明してくれる。
「我々、獣人は母なる森より生まれるのです。獣人の誕生は各代の王へと森より予言を頂けるので、お迎えにあがる事が出来ます。また、母なる森へは獣人以外は踏み入る事が出来ませんので、民が掠ったり己の子供と交換したりなどの行為はありません」
 小さく頷いた私に、ディーバさんは続ける。
「次代には成人した狼の姿をとれる王族の中から森が選びますので継承争いなどはあまりありません」
 男性が出産するわけではないらしいと、どうでも良い事に安堵すると、ディーバさんの説明で引っ掛かった物を問うてみる。
「お話の中で、継承争いはあまり無かったとおっしゃいましたが、断言では無かった所を見ると過去には継承争いがあったと言うことでしょうか?」
「よく気付いたな。あったぞ?」
 ニヤリと笑った王様曰く、血生臭い歴史は王が王妃を置いていた時代のみだという。
 それはそうだろう。自分のお腹を痛めて命がけで産んだ正真正銘の王の子供が、獣人ではないから次代と認めないと言われたら、普通、女性なら誰でも憤慨するだろう。
 そんな歴史から学んで、王は王妃、妾妃などの子供を産み落とせる、又、象徴となる女性という存在を日常生活に差し支えるメイドさんなどを除き、側に置かなくなったのだという。
「歴史を知っていれば口にするはずのない王妃様を尋ねた私を騙りではないと判断されたと?」
「ああ。この世界の者は皆、知っている。知らぬのは強いて言うなら物喋れぬ赤子くらいだな」
「だから私を・・・・」
 いや、それだけでは確信する材料としては弱い。
国を守る王が、この世界の常識を知らなかったというだけで判断を下すとは思えない。
「しかし、常識を知らない振りをしている可能性も捨てきれませんよね?」
「確かにな。正直、ディーバが報告を上げにくるまでは騙りだと断定していたのだ。だが、駆け込んできたディーバがミーナからは嗅いだ事の無い香りがすると言う。我々は鼻が効く。その我々をごまかすなど不可能だ。そこにきてミーナの名前だ」
「私の名前が何か?」
「耳にし、確かに理解したと思い口にしても、誰も発音出来なかったのだ」
 匂いで判断するとはさすが獣人だなと感心すると同時に、身体に力が入らなくなってきている事に気付かされる。
 でも、まだだ!!まだまだ、判断材料が足りない!!
 まだ倒れる訳にはいかない!!持ちこたえろ!!私の身体!!
 当然だが、私の異変に気付かぬのか、素知らぬ振りをしていのか、王様が続ける。
「皆の見ている前で子供達を叱ったろう?次代を叱る事は即、死に繋がると民ならば理解している。だからこそ、騙りなどではなく、ミーナは子供達に召喚されたと確信したのだ」
 あ"~。
 確かに接見の間でデスフラグを建てまくったなと思い出す。
「だから安心して良い。我々はミーナが騙りなどとは思ってない」
「ありがとうございます」
 柔らかく微笑む王様に、椅子から立ち上がって頭を下げると立ちくらみに襲われる。 
 ヤバいっ!!
 ふわりと揺れた体を誰かが抱き留めてくれた。
「随分と気を張っていたようだ。寝かせてやれ」
意識を手放す瞬間、王様の優しい声が聞こえた気がした。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

私のお父様とパパ様

ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。 婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。 大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。 ※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。 追記(2021/10/7) お茶会の後を追加します。 更に追記(2022/3/9) 連載として再開します。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

私は逃げます

恵葉
恋愛
ブラック企業で社畜なんてやっていたら、23歳で血反吐を吐いて、死んじゃった…と思ったら、異世界へ転生してしまったOLです。 そしてこれまたありがちな、貴族令嬢として転生してしまったのですが、運命から…ではなく、文字通り物理的に逃げます。 貴族のあれやこれやなんて、構っていられません! 今度こそ好きなように生きます!

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

騎士団長のお抱え薬師

衣更月
ファンタジー
辺境の町ハノンで暮らすイヴは、四大元素の火、風、水、土の属性から弾かれたハズレ属性、聖属性持ちだ。 聖属性持ちは意外と多く、ハズレ属性と言われるだけあって飽和状態。聖属性持ちの女性は結婚に逃げがちだが、イヴの年齢では結婚はできない。家業があれば良かったのだが、平民で天涯孤独となった身の上である。 後ろ盾は一切なく、自分の身は自分で守らなければならない。 なのに、求人依頼に聖属性は殆ど出ない。 そんな折、獣人の国が聖属性を募集していると話を聞き、出国を決意する。 場所は隣国。 しかもハノンの隣。 迎えに来たのは見上げるほど背の高い美丈夫で、なぜかイヴに威圧的な騎士団長だった。 大きな事件は起きないし、意外と獣人は優しい。なのに、団長だけは怖い。 イヴの団長克服の日々が始まる―ー―。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

処理中です...