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第三〇話 過去の面影

第三〇話 一

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 翌日の夕食後、慈乃は前日にウタセと約束したように客間を訪れた。
 扉の隙間からは光が細く漏れ出ていて、内容までは聞き取れなくともニアとウタセの賑やかな会話とそれに相槌を打つミトドリの声がぼんやりと耳に届く。
 慈乃が遠慮がちに扉を軽く叩くとすぐに「はーい」「どうぞー」とウタセとニアの重なった声が返ってきた。
「やっぱりシノだった! いらっしゃい!」
 最初に慈乃を出迎えたのはウタセだった。今日も仕事に注力していた彼はこの時間でも疲れを感じさせない明るい笑顔を見せる。
変わらないウタセの笑みに慈乃がほっとしていると、ウタセとはテーブルを挟んだ向かい側のソファーに着席しているニアが隣の空いている座面を叩いた。
「シノ、こっちこっち」
「お邪魔します」
 慈乃はニアの隣に腰かけると、改めて目の前のローテーブルに広げられた物を見た。
そこには昨日撮った写真が印刷された状態で紙の山を成しており、書き込むためにか付箋とペンも用意されている。さらにアルバムは何故か一〇冊ほど出されており、テーブルにのりきらない分は床に山積みにされていた。
気になった慈乃はおずおずと問いかける。
「あの……。このアルバムの山は?」
「ああ、これ? ついでに昔のも出してみたんだよ。見返してみると結構楽しくてね」
「ね。つい話が盛り上がっちゃって」
「ああ、それで……」
 どうりで廊下まで声が届いていたわけだ。慈乃はひとり納得しながら、つとテーブルの上に開かれたまま置かれているアルバムを見た。
 どうやら開かれているアルバムは何年か前のものらしい。慈乃の知らない顔もあったが、既に学び家を巣立ったソニアやアウィルと思しき人物や、それこそ今よりもずっと幼く感じられるスギナとツクシもいた。背景はどれも桜色をしていて、お花見のときに撮った写真だと一目でわかった。
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