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第二八話 笑顔に満ちた思い出づくり
第二八話 四
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冬の花祭をきっかけに、街はすっかり冬仕様になっている。聖花祭まではあと二〇日をきっていて、モミの木に飾りつけを施した聖花の樹やセイヨウヒイラギや松ぼっくり、ドライフラワーをあしらったリースなどが街のいたるところに飾られていた。
興味深そうに街の飾りを見つめていたウルフィニを慈乃は優しい眼差しで見守っていた。そこにレヤとフィオの元気な会話が聞こえ、慈乃はそちらに視線を移した。
「サンドウィッチといったらトマトだろ!」
「でもトマトって夏の野菜だってウタ兄ちゃんが言ってたぞ」
「えー、じゃあ何入れればいいんだよー?」
慈乃が笑みをこぼすように、スイセンやトゥナも慈乃と同じような表情をしていた。
「確かにトマトは夏野菜だけど、今の時期は他の街から仕入れてるからどこかには売ってると思うよ」
トゥナが教えると、レヤとフィオはぱっと顔を輝かせてはしゃぎ声をあげた。ソラルが「街なんですからあまりうるさくしないでくださいよ」と注意するのも聞いているのか、いないのか。
慈乃も周りに注意を払いながら、そのレヤとフィオの様子を微笑ましく眺めていると、やがてなじみの青果店に着いた。
「あ、トマト売ってる!」
先を駆けるレヤを追いかけるようにフィオも後に続く。ソラルが盛大なため息をついた。
「まったく、何度言っても聞かないんですから……」
「しょうがないんじゃない? オレ達も行こうよ」
「……そうですね」
わらわらと店に向かう子ども達の後から入店した慈乃は、店主を見つけると小さく頭を下げた。
「すみません。お騒がせします」
「ああ、シノさん。いやいや、こちらこそ楽しませてもらってるよ。やっぱり元気な子どもの声はいいもんだな。こっちまで元気がもらえる気がするよ」
店主は眩しそうに目を細めて子ども達を見る。
するとウルフィニが近づいてきて、くいと慈乃の袖を引いた。
「これがれたす?」
ウルフィニが指さした野菜を見るとキャベツだった。
「惜しかったです。それはキャベツですね」
「おんなじにみえる……」
ウルフィニの側にいたヒイラギがうんうんと頷く。
「わかる……。自分も、よく間違えた」
慈乃が苦笑していると、ガザに肩をつつかれた。振り返るとガザの持つ籠に数点の野菜が入れられているのが目に留まった。
「なあなあ、シノ。こんなもんでいいか?」
ミトドリには今日の計画を事前に話しており、昼食代にとお金も渡されている。それを管理するのは慈乃だったので、ガザがこうしてお伺いを立ててきたというわけだ。
「トマトにレタスと……リンゴですね。はい、いいと思いますよ」
会計を済ませると、慈乃達は店主に笑顔で見送られながら青果店を出た。
興味深そうに街の飾りを見つめていたウルフィニを慈乃は優しい眼差しで見守っていた。そこにレヤとフィオの元気な会話が聞こえ、慈乃はそちらに視線を移した。
「サンドウィッチといったらトマトだろ!」
「でもトマトって夏の野菜だってウタ兄ちゃんが言ってたぞ」
「えー、じゃあ何入れればいいんだよー?」
慈乃が笑みをこぼすように、スイセンやトゥナも慈乃と同じような表情をしていた。
「確かにトマトは夏野菜だけど、今の時期は他の街から仕入れてるからどこかには売ってると思うよ」
トゥナが教えると、レヤとフィオはぱっと顔を輝かせてはしゃぎ声をあげた。ソラルが「街なんですからあまりうるさくしないでくださいよ」と注意するのも聞いているのか、いないのか。
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先を駆けるレヤを追いかけるようにフィオも後に続く。ソラルが盛大なため息をついた。
「まったく、何度言っても聞かないんですから……」
「しょうがないんじゃない? オレ達も行こうよ」
「……そうですね」
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「すみません。お騒がせします」
「ああ、シノさん。いやいや、こちらこそ楽しませてもらってるよ。やっぱり元気な子どもの声はいいもんだな。こっちまで元気がもらえる気がするよ」
店主は眩しそうに目を細めて子ども達を見る。
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