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第二七話 約束の花祭

第二七話 一三

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 話し込んでいるうちに、集合場所に学び家の皆が集まってくる。最後にやって来たのはやはりガザ達のグループで、ミトドリが点呼をとってから出発となった。
 丘を歩いていると、スイセンが声を掛けてきた。
「聞きましたよ、シノさん。次のお休みに一緒に街へ行ってくれるんでしょう?」
 さすがスイセンは耳が早い。慈乃が肯定すると、スイセンはぱっと笑顔になった。
「やった。テオもウルも、楽しみだね」
「またおはなやさんにいきたいな」
「うん、たのしみ」
テオとウルフィニのいかにも楽しみといった様子に慈乃の頬は緩みかけるが、ふと思い出したことがある。
「私は良いですけど……、スイくんとリンくんは約束があったんですよね?」
 慈乃が問えばスイセンと近くにいたリンドウは顔を見合わせる。答えたのはスイセンだった。
「男子全員で、しかもシノさんと遊びに行けるんですよ。そっちの方が賑やかで楽しそうじゃないですか。リンもそう思わない?」
「うん」
 短くではあったがリンドウの言葉に嘘はないようだった。
「ですって。どこに行こうな、今から考えておかなくちゃ」
 趣味も好きなものも皆それぞれで、当日はどうなることか想像がつかない。けれどもスイセンが言ったようにきっと賑やかで楽しい時間になることは予想できた。
 慈乃が来る未来に思いを馳せていると、街の方からキーンという澄んだ高音が響き渡ってきた。次いでリンリンと細かな音とともに、無数の花が降ってくる。
「わぁ……!」
 子ども達が歓声をあげる。何度も見たことがあるだろう光景にも関わらず、まるで初めて見たかのようにいつも新鮮な反応を見せている。足を止めた彼らに倣って、慈乃もその場で立ち止まると後ろを振り返って街の方角に体を向けた。
 慈乃はこの光景を目にすると、初めて訪れた夏の花祭のことを思い出す。家族を愛しく思い、花に感謝したそのときの気持ちまで、今でもはっきりと思い出すことができた。
 すっかり暗くなった夜空には月が皓々と光り、数多の星が輝いている。それらの光を受けて花々が艶やかさを帯び、淡く発光しているように見えた。
 隣をちらりと見ると、リンドウはじっと空を見つめていた。
「……ありがとう」
 不意に呟かれたその一言は、いったい誰にあるいは何に向けたものだったのか。学び家の家族か、リンドウの精か、もしかしたら現状に感謝したのかもしれない。いずれにせよ慈乃には確実なことはわからない。けれどもリンドウの穏やかな横顔を見れば、訊こうという気にはならなかった。
 そして慈乃もまた宙を見上げる。
(私が変わるきっかけになり、今を導いてくれた花に感謝を)
 脳裏に家族の笑顔を描きながら、慈乃は花に感謝を捧げるのだった。
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