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第二七話 約束の花祭
第二七話 一二
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やがて集合場所にたどり着く。そこには既にウタセとミトドリの姿があった。ツユ、ラナ、フユ、ラジルも一緒にいる。
慈乃が気づくのと同時にウタセとミトドリも慈乃とリンドウの存在に気づいたらしく、ウタセが大きく手を振った。
「おかえりー!」
「ただいま戻りました」
慈乃が答えると、ウタセの腕の中にいたツユが慈乃に向かって両手を伸ばした。
「シノの方がいいのかな」
ウタセがツユを慈乃に預けた。ツユは嬉しそうにきゃっきゃと声をあげる。
「ご機嫌だねぇ、ツユ」
「ふふっ。可愛いですね」
最初はしどろもどろだったが、スギナやウタセに指導してもらった甲斐あって、慈乃も小さい子どもの世話にすっかり慣れてきた。今では子ども達の成長を感じ、喜べるくらいには余裕ができている。
慈乃が笑いかけると、ツユもにっこりと笑い返した。
その光景を微笑ましく見ていたウタセが慈乃に尋ねる。
「今日はどこに行ってきたの?」
「みくじ握りと花の飴細工の屋台です。ね、リンくん」
急に話を振られたリンドウは少し慌てていたものの、すぐにいつもの調子に戻った。
「そうですね。屋台も良かったですが、俺としては景色の方が気になっていました」
「へえ。やっぱりリンには、三番地の花祭は珍しく映ったのかな」
「街自体の雰囲気から違います。でも、花がたくさんあることは同じでした」
「そっかそっか。楽しめたみたいで良かったよ」
「はい。……シノさんのおかげです」
リンドウが慈乃を見つめる。普段は隠れがちな月白色の瞳が長い前髪の隙間からのぞいた。その色はもう、いつか見た孤高の月のような冷たい色をしていない。例えるなら優しく穏やかに降り注ぐ月の光に似ていた。
ウタセも気づいたらしい。慈乃と顔を見合わせるとふっと柔らかに微笑んだ。
慈乃が気づくのと同時にウタセとミトドリも慈乃とリンドウの存在に気づいたらしく、ウタセが大きく手を振った。
「おかえりー!」
「ただいま戻りました」
慈乃が答えると、ウタセの腕の中にいたツユが慈乃に向かって両手を伸ばした。
「シノの方がいいのかな」
ウタセがツユを慈乃に預けた。ツユは嬉しそうにきゃっきゃと声をあげる。
「ご機嫌だねぇ、ツユ」
「ふふっ。可愛いですね」
最初はしどろもどろだったが、スギナやウタセに指導してもらった甲斐あって、慈乃も小さい子どもの世話にすっかり慣れてきた。今では子ども達の成長を感じ、喜べるくらいには余裕ができている。
慈乃が笑いかけると、ツユもにっこりと笑い返した。
その光景を微笑ましく見ていたウタセが慈乃に尋ねる。
「今日はどこに行ってきたの?」
「みくじ握りと花の飴細工の屋台です。ね、リンくん」
急に話を振られたリンドウは少し慌てていたものの、すぐにいつもの調子に戻った。
「そうですね。屋台も良かったですが、俺としては景色の方が気になっていました」
「へえ。やっぱりリンには、三番地の花祭は珍しく映ったのかな」
「街自体の雰囲気から違います。でも、花がたくさんあることは同じでした」
「そっかそっか。楽しめたみたいで良かったよ」
「はい。……シノさんのおかげです」
リンドウが慈乃を見つめる。普段は隠れがちな月白色の瞳が長い前髪の隙間からのぞいた。その色はもう、いつか見た孤高の月のような冷たい色をしていない。例えるなら優しく穏やかに降り注ぐ月の光に似ていた。
ウタセも気づいたらしい。慈乃と顔を見合わせるとふっと柔らかに微笑んだ。
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