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第二六話 あたたかな晩秋

第二六話 一五

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「よーし! そうと決まれば、みんなの絵に私のいた証を残していってあげないとね!」
 カルリアに誘われて、慈乃も同行する。
「カルリア画伯参上! スイ、紙貸して」
 スイセンは笑顔で画用紙を差し出したが、リンドウはスイセンの絵に描かれた絵を見て戦慄していた。リンドウもひとのことは言えない絵心のなさだが、美醜の区別はつくらしかった。
「な、なんです、これ……?」
「カルセオラリアの花だよ」
 リンドウに答えながらカルリアは画用紙をスイセンに返した。スイセンは面白そうにくすくすと笑っていた。
「せっかくだからリンも描いてもらいなよ」
「え、いや、いいよ」
「遠慮しないでいいよ!」
「遠慮ではなく……あっ」
 すかさずスイセンはリンドウの絵を奪い取るとカルリアに差し出した。カルリアは鼻歌を歌いながらさらさらと色鉛筆を走らせる。そこにも自称・カルセオラリアの花が咲いた。
「うわ……」
 返された絵を見て、リンドウはげんなりといった顔をした。しかし律儀にもその絵を落ち葉で隠すようなことはせず、リンドウらしいなと慈乃は思った。
「せっかくですし、シノさんも何か描いてくださいよ」
 スイセンが輝く瞳で慈乃を見上げる。
「何がいいでしょう?」
「じゃあ、カモミールの花を描いてください」
「わかりました」
 出来上がった絵をスイセンは嬉しそうに受け取った。ついでにリンドウの画用紙も差し出して、おそろいのカモミールの花を描くように頼んでくる。慈乃がリンドウをちらりと見遣れば、リンドウはカルリアに落書きされた時点で諦めたのか「好きにしてください」とだけ言った。
 返された絵を見て、リンドウは目をまるくしていた。
「……絵、上手いんですね」
「人並みだと思いますが……」
 それでも絵心がないリンドウにしてみれば、慈乃の絵は上手な方に分類されるようだった。「ありがとうございます」と言う声は心なしか上ずっているように聞こえた。
 そのようにして、カルリアは皆の作品に絵を描きつけていった。慈乃も頼まれればカルリアの絵の隣に絵を描いた。反対に、カルリアも皆に絵を描いてもらっていた。
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