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第二五話 花開くリンドウ
第二五話 二二
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「本当に怪我とかはしてないんだよね?」
保健室でウタセと向き合って椅子に座ったリンドウは無言で頷いた。慈乃と同様にウタセも心底からリンドウのことを心配しているのは語り口から伝わってくる。しかし慈乃とは違って、目の前のウタセからは怒りも感じられた。
「それなら良かったよ。だけど、どうして約束を守らなかったの?」
「……」
「リンドウ」
理由はいくつかあったがそれを馬鹿正直に話すのは躊躇われた。リンドウが口をつぐんでいると、ウタセが厳しい声でリンドウの名を呼んだ。いつもなら『リン』と愛称で呼ぶウタセだったが、このときばかりは違い、本気で怒っているのだとわかった。
リンドウは渋々と理由を話し出した。
「ここは煩いし、息苦しかったから、です。静かなところにひとりでいたくて、魔がさして裏道に行きました……」
ウタセは呆れたり非難したりはせず、じっとリンドウの話に耳を傾けていた。
「でもここまで大事になるとは考えてませんでした。知らない男の人達に絡まれたのも偶然です。本当は裏道に入っても少ししたら帰ろうと思っていました」
話を最後まで聞き終えたウタセはリンドウの目を真っ直ぐに見つめた。
「リンは、学び家に来たくなかった?」
唐突な問いにリンドウは目をまるくした。見つめ返したウタセの瞳は真剣そのもので、適当な答えを許さないと物語っているようだった。だからリンドウは正直に答えた。
「……わからないんです」
「わからない?」
保健室でウタセと向き合って椅子に座ったリンドウは無言で頷いた。慈乃と同様にウタセも心底からリンドウのことを心配しているのは語り口から伝わってくる。しかし慈乃とは違って、目の前のウタセからは怒りも感じられた。
「それなら良かったよ。だけど、どうして約束を守らなかったの?」
「……」
「リンドウ」
理由はいくつかあったがそれを馬鹿正直に話すのは躊躇われた。リンドウが口をつぐんでいると、ウタセが厳しい声でリンドウの名を呼んだ。いつもなら『リン』と愛称で呼ぶウタセだったが、このときばかりは違い、本気で怒っているのだとわかった。
リンドウは渋々と理由を話し出した。
「ここは煩いし、息苦しかったから、です。静かなところにひとりでいたくて、魔がさして裏道に行きました……」
ウタセは呆れたり非難したりはせず、じっとリンドウの話に耳を傾けていた。
「でもここまで大事になるとは考えてませんでした。知らない男の人達に絡まれたのも偶然です。本当は裏道に入っても少ししたら帰ろうと思っていました」
話を最後まで聞き終えたウタセはリンドウの目を真っ直ぐに見つめた。
「リンは、学び家に来たくなかった?」
唐突な問いにリンドウは目をまるくした。見つめ返したウタセの瞳は真剣そのもので、適当な答えを許さないと物語っているようだった。だからリンドウは正直に答えた。
「……わからないんです」
「わからない?」
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