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第二五話 花開くリンドウ

第二五話 一九

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大通りの明るさと賑わいに、慈乃はやっと緊張を解いた。乱れた息を整えているとウタセが顔を覗き込んできた。
「シノ、ありがとうね。大丈夫?」
「はい。リンドウくんは……?」
「怪我はしてないみたいだよ」
「……」
 ウタセは無言を貫くリンドウとつないでいた手を軽く持ち上げた。慈乃がリンドウに視線を移すと、さっと目を逸らされた。
 学び家への道を歩き出し、丘に出ると、慈乃はウタセに尋ねた。
「あの、さっきの男の人達はどうしたんですか」
「うん? 護身術でちょっとね」
 ウタセは少しだけ申し訳なさそうに答えた。
ウタセはそれ以上訊かれたくないようだったので、慈乃は今度は僅かに先を歩くリンドウの名を呼んだ。
「リンドウくん」
 先ほどのことがありばつが悪いのか、リンドウは無視せず、ちらりと肩越しに慈乃を見た。
「……はい」
「無事でよかったです」
 慈乃は瞳を潤ませて淡く微笑んだ。リンドウは目を大きく見開いて歩みを止めた。
「……なんで……」
「え?」
「なんで、そんな顔できるんですか。……怒らないんですか」
 リンドウの顔は夜空の下でもわかるほどに困惑に彩られていた。
「あなたのいうことがときどきわからなくなります」
 慈乃はリンドウに歩み寄ると僅かに膝を折り、視線を合わせた。今度は目が逸らされることはなく、ふたりの視線が交わった。
「……怒りたい気持ちが、ないわけじゃありません。けれど、それ以上にリンドウくんのことが心配でした。ちゃんと帰ってきてくれて、安心しました……」
 慈乃の思いが本物だということが伝わったのだろう。リンドウの竜胆色の右目は微かに揺れていた。
「……ごめん、なさい……」
 消え入るほどに小さな声だったが、慈乃の耳にはきちんと届いた。慈乃は唇に弧を描くと柔らかに目を細めた。
「帰りましょう。皆さんが待っています」
 リンドウはぎこちなくも素直に頷いた。
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