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第二四話 再び紡ぐ物語
第二四話 七
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慈乃とウタセがリンドウの部屋の前から立ち去ろうとすると、ふいに背後から名前を呼ばれた。
「シノ姉、みっけ!」
「みつけたー」
廊下の奥からカルリアとメリルが小走りにこちらへやってくる。メリルの手には封筒が握られていた。
「はい、おてがみです!」
いつもなら扉の取っ手に紙袋を下げ、そこに投函されているのだが、今日は手渡しだった。慈乃がきょとんとしていると、カルリアも隠し持っていた手紙を慈乃に差し出した。
「書きたてほやほやだよ。シノ姉に早く読んでほしくて、今日は速達にしたの」
「そうでしたか。ありがとうございます」
慈乃は二通の手紙を受け取った。
慈乃を見上げるメリルの瞳が早く早くと訴えている。少し迷ったが、慈乃はこの場で読むことにした。
『シノお姉ちゃんへ
シノお姉ちゃんがにこにこになってくれて、メリルはうれしかったよ。おしごともがんばってね。メリルともいっぱいあそんでね。お姉ちゃん、だいすきだよ。
メリルより』
誤字のない文章にメリルの成長を感じて、胸があたたかくなる。慈乃はしゃがんでメリルに視線を合わせると、優しく微笑んだ。
「お返事は今日のうちに返しますね」
「うん、たのしみにしてるね!」
慈乃は頷くと立ち上がった。カルリアと目が合うと、彼女は照れくさそうに笑った。
「私のは後で読んで。目の前で読まれるのは恥ずかしいし」
「では、そうします。ふたりとも、ありがとうございます」
カルリアとメリルは笑顔を弾けさせると、三階へと消えていった。
二階から一階への階段に足をかけながら、ウタセが楽しそうに言った。
「シノは人気者だねぇ」
「そうでしょうか」
「きっとシノが戻ってきてくれたこと、みんな嬉しいんだよ」
「シノ姉、みっけ!」
「みつけたー」
廊下の奥からカルリアとメリルが小走りにこちらへやってくる。メリルの手には封筒が握られていた。
「はい、おてがみです!」
いつもなら扉の取っ手に紙袋を下げ、そこに投函されているのだが、今日は手渡しだった。慈乃がきょとんとしていると、カルリアも隠し持っていた手紙を慈乃に差し出した。
「書きたてほやほやだよ。シノ姉に早く読んでほしくて、今日は速達にしたの」
「そうでしたか。ありがとうございます」
慈乃は二通の手紙を受け取った。
慈乃を見上げるメリルの瞳が早く早くと訴えている。少し迷ったが、慈乃はこの場で読むことにした。
『シノお姉ちゃんへ
シノお姉ちゃんがにこにこになってくれて、メリルはうれしかったよ。おしごともがんばってね。メリルともいっぱいあそんでね。お姉ちゃん、だいすきだよ。
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