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第二三話 めぐる笑顔
第二三話 一二
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ふと見上げたウタセの瞳は、揺らいだ水面のようだった。
「シノ……っ!」
すると突然、ウタセは慈乃に手を伸ばした。気づいたときには慈乃はウタセの腕の中にいた。
慈乃が目を白黒させていると、引き絞った声が頭上から降り注いできた。
「ありがとう、シノ……」
その声は心なしか涙にぬれて、震えているように聞こえた。慈乃は常にないウタセの声音におずおずと顔を上げた。ウタセは慈乃の視線に気が付くと、泣き笑いを向けてきた。
「シノがここにいたいって決めてくれたことも、約束通りのありがとうを伝えてくれたことも……過去の君を否定しないでくれたことも」
背景にはカモミールの花畑。そして眦から散る涙の粒に、春の陽だまりのような柔らかな笑顔。
(私は、この光景を知っているわ)
夢に見た、実際には過去にあった光景が重なる。
『……悲しいことばっかりあって、僕、ずっと笑えなかったんだ。笑えないことも悲しくて……』
栗色の髪と目をした男の子が呆然と呟く。それを聞いていた猫柳色の髪と目をした女の子が『そうなの?』と首を傾げる。
男の子は取り戻した笑顔に顔を輝かせた。
『うん。でも、君のおかげでまた笑えるようになったよ。君の優しさに助けられたんだ。ありがとう』
そういえば出会い頭に名前を聞いたことをいまさら思い出す。
少年の名前は確か……。
「歌瀬、お兄ちゃん……?」
懐かしい呼び名に、ウタセは目を瞠った。
「シノ、憶えててくれてたの……?」
ウタセの呟く声は衝撃か歓喜かに僅かに震えていた。慈乃は小さく頷いた。
「ずっと小さいころ、会っていたんですね。……ウタくんは、もともと人間だったということですか?」
ウタセは顔を強張らせて、言葉を詰まらせた。しばしの沈黙の後、ウタセは怖々と慈乃に問いを投げかけた。
「シノはもう、人間は怖くない?」
「以前よりは、割り切れるようになりました」
「そっか。シノは決別できたんだもんね……」
慈乃が正直に答えると、ウタセは詰めていた息を吐いた。そして覚悟を決めた表情で、慈乃の目を真っ直ぐに見つめた。
「シノ……っ!」
すると突然、ウタセは慈乃に手を伸ばした。気づいたときには慈乃はウタセの腕の中にいた。
慈乃が目を白黒させていると、引き絞った声が頭上から降り注いできた。
「ありがとう、シノ……」
その声は心なしか涙にぬれて、震えているように聞こえた。慈乃は常にないウタセの声音におずおずと顔を上げた。ウタセは慈乃の視線に気が付くと、泣き笑いを向けてきた。
「シノがここにいたいって決めてくれたことも、約束通りのありがとうを伝えてくれたことも……過去の君を否定しないでくれたことも」
背景にはカモミールの花畑。そして眦から散る涙の粒に、春の陽だまりのような柔らかな笑顔。
(私は、この光景を知っているわ)
夢に見た、実際には過去にあった光景が重なる。
『……悲しいことばっかりあって、僕、ずっと笑えなかったんだ。笑えないことも悲しくて……』
栗色の髪と目をした男の子が呆然と呟く。それを聞いていた猫柳色の髪と目をした女の子が『そうなの?』と首を傾げる。
男の子は取り戻した笑顔に顔を輝かせた。
『うん。でも、君のおかげでまた笑えるようになったよ。君の優しさに助けられたんだ。ありがとう』
そういえば出会い頭に名前を聞いたことをいまさら思い出す。
少年の名前は確か……。
「歌瀬、お兄ちゃん……?」
懐かしい呼び名に、ウタセは目を瞠った。
「シノ、憶えててくれてたの……?」
ウタセの呟く声は衝撃か歓喜かに僅かに震えていた。慈乃は小さく頷いた。
「ずっと小さいころ、会っていたんですね。……ウタくんは、もともと人間だったということですか?」
ウタセは顔を強張らせて、言葉を詰まらせた。しばしの沈黙の後、ウタセは怖々と慈乃に問いを投げかけた。
「シノはもう、人間は怖くない?」
「以前よりは、割り切れるようになりました」
「そっか。シノは決別できたんだもんね……」
慈乃が正直に答えると、ウタセは詰めていた息を吐いた。そして覚悟を決めた表情で、慈乃の目を真っ直ぐに見つめた。
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