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第二三話 めぐる笑顔

第二三話 三

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ウタセは僅かに視線を地面に落としていたが、やがて口を開いた。
「……シノにもといた世界に帰るべきかってきかれたとき、僕はそれはシノが決めるべきことで僕が口出しするべきじゃないって答えたよね」
「はい」
 思いがけず返されたウタセの硬い声が蘇る。当時の慈乃は自分に価値がないから引き止められないのだろうと歪んだ見方をしていた。冷静になった今ならウタセの言は至極正論だったのだとわかる。
 だから、どうしてウタセがばつの悪そうな顔をするのか、慈乃にはわからなかった。
「あんなこと言っておきながら、僕は本当は、シノにもとの世界に帰らないでほしいって思ってしまったんだ……」
「えっ?」
 想像だにしなかったウタセの告白に、慈乃は目を見開いた。ウタセは慈乃をちらちら見ながら、気まずそうに言葉を継いだ。
「それで、シノが昨日ちゃんと帰ってきたことに安心して、喜んでしまった。……ね、僕はずるいでしょう? だから謝ってもらう資格なんてないんだ」
 ウタセの本音を知って、慈乃の隠していた醜い弱音がぽろりとこぼれ出る。
「私が……学び家の皆さんにとって、必要ないからだと……。だから、引きとめられないのだと、思っていました……」
「そんなこと絶対にないよ!」
 ウタセは慈乃の言葉尻に被せるようにして、即座に否定した。慈乃をとらえる瞳には、彼にしては珍しく余裕の色がない。
「シノが悩んでる間、心配しない家族なんていなかった。だけど、僕達の存在が枷になって、シノの決断を左右させることがあったらいけないって思ってたんだ」
「そ、うだったんですね……」
 自分に価値がないからではなかったのだ。それが証明されて、慈乃は心底ほっとした。慈乃の様子を見て、ウタセは幾分か落ち着きを取り戻してきたようだった。
「そうだよ。みんな、シノのことが大好きなんだ」
 ウタセはすっと息を吸うと、優しく温かく微笑んだ。
「学び家に、家族のもとに、帰ってきてくれてありがとう」
 その言葉に、今までの苦悩の時間も報われるような気がした。
 苦しみ抜いた先に帰りたい居場所が見つけられたのなら、あの時間も、過去の自分ですらも、決して無駄ではなかったのだと思える。
 慈乃は目を潤ませ、感謝と愛しさをこめた微笑みをほろりと咲かせた。
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