カモミールの福音 ～花と〈家族〉に癒される優しい世界の物語～

第二二話 答えの在り処

第二二話 七

「あーあ、捕まっちゃったー」
「結構盛り上がったな」
　鬼に捕まえらえた者が増えると、保健室の前は一気に賑やかになった。全員が捕まる頃にはお昼を少し過ぎていた。
「今日は天気もいいし、外で食べよっか」
　ニアは先ほどまで駆けまわっていたはずだがまったく疲れを感じさせない動きで、ぴょんと立ち上がった。
「今から作るのか？」
　スギナが横目でニアを見上げる。ニアは「ううん」と首を横に振った。
「今日は朝のうちに作っておいた。多分こんなことになるんじゃないかなって思ってたし」
「あ、ぼく手伝いますよ」
　状況を察したスイセンが手伝いの名乗りを上げる。彼に続いて、カルリアとクルルも立ち上がった。
「ここまで運べばいいんだよね」
「私達も手伝うわ」
　ニア達四人はぞろぞろと厨房へ向かう。彼らが戻ってくるまでの間に、ミトドリとウタセは園庭に茣蓙を何枚か敷いていた。
「みんなは先に手を洗って待ってようか～」
　ツクシの誘導に従って、子ども達が水道前に列を作る。
「ほら、シノちゃんも～」
「は、はい」
　皆に倣って、最後に慈乃も手を洗った。
折よく皿を抱えたニア達も戻ってくる。皿には様々な具を挟んだサンドイッチが山のように載っていた。茣蓙の上に料理を置いて回ると、ニアが恒例の挨拶を始めた。
「おててを合わせて、いただきます！」
「いただきまーす！」
　最近はひとりで食事をとることがほとんどだった慈乃にとって、今日の昼食はとても賑やかに感じられた。あれだけ苦痛だと思っていた楽しそうな話し声や眩しい笑顔が、今は辛くなくなっていた。
　ぱくりと小さくサンドイッチを頬張る。
「美味しい……」
　食事の味がわからなくなっていたのに、今ははっきりと美味しいと思えた。減退していた食欲が僅かずつ戻ってくる。
　慈乃が夢中で食べ進めていると、隣でニアがくすりと笑った。
「気に入ってもらえたみたいで何より。それにちょっとは元気が戻ってきたみたいね」
「はい。皆さんの、……家族のおかげです」
　顔を上げ辺りを見渡すと、それぞれが楽しそうに笑って食事や会話をしている。何気ない日常のひと場面がひどく愛おしく思え、慈乃の心を満たしていった。
　穏やかな慈乃の表情を目にして、子ども達も無意識に安心したのか口々に慈乃に話しかけてきた。
「シノお姉ちゃん、このあともあそんでくれる？」
「メリルはね、いっぱいおはなしもしたいな」
「また、えほんもよんでほしい」
「私はシノ姉の作ったご飯が食べたいな」
「街に出かけるのもいいわね。あんまり引きこもってるとキノコが生えてくるわよ」
「あたしも混ぜてー！」
　慈乃を中心に笑顔が広がる。確かに皆の輪の中に慈乃はいた。
（私の大事なものはここにある。大切なひとはここにいる。私の居場所だって……）
　ずっと知りたかった問いの答えを掴みかけた気がした。