上 下
291 / 454
第二二話 答えの在り処

第二二話 三

しおりを挟む
植えられた植物に隠れるように菜園の陰に身を潜めようとしていた慈乃だったが先客がいた。
「ラギくん、シキブちゃん」
「シノ姉さんも、ここに隠れるか?」
「うふふぅ。どうぞこちらへぇ」
 シキブがヒイラギに身を寄せて慈乃の分の空間を空けてくれる。慈乃はありがたくその場に身を潜めた。
 そうこうしているうちに一分が経った。鬼役のソラル、スイセン、サーヤが一斉に駆け出した。幸いまだこちらには来ていないのをいいことに、シキブは小声で慈乃に話しかけた。
「それにしても、シノ姉さんまで一緒に遊んでくれるとは思いませんでしたぁ」
「……ここのところ顔を合わせなかったから、どうしてるか気になってた」
 ヒイラギもシキブに追随する。ふたりとも心から慈乃のことを案じていることがわかった。慈乃はとっさに謝罪の言葉を口にした。
「それは……すみませんでした……」
「嫌ですぅ。謝らないでくださいなぁ」
 シキブは軽く慈乃の肩を叩いた。
「ちょっとだけ心配だったんですよぉ。私達のこと嫌いになってしまったのかしらとかぁ、シノ姉さんはそんなに元気がないのかしらってぇ」
「き、嫌いになんてなりません……!」
 慈乃が僅かに身を乗り出して否定すると、シキブもヒイラギもほっとした顔をして見せた。
「なら良かったわぁ」
「今日、一緒に遊んでくれて嬉しい。ありがとう、シノ姉さん」
 ふたりの眩しい笑顔を前に、慈乃は目を細めた。
「あっ、ラギ達みつけた!」
 話し声に気づいたのか、サーヤがこちらへ駆け寄ってくる。慈乃達はサーヤの手から逃れるようにダッとその場から走り去った。
 十日以上も運動らしい運動をしていなかったのがたたって、慈乃はすぐに息を上げてしまっていた。だが運のいいことにサーヤには捕まらなかったので、鬼に警戒しながら次の隠れ場所を探した。
「シノ姉?」
 遊戯室の前を通ると名を呼ばれた。声の聞こえたあたりに近づくと、そこにはツクシとテオとウルフィニがいた。
 ツクシに手招きされて慈乃が隣に座りこむと、ウルフィニがぴったり慈乃に寄り添った。
「……さびしかった」
「えっ」
「シノ姉、ずっとあそんでくれなかったから、さびしかった」
 そう呟くと、ウルフィニは慈乃に抱き着いた。ウルフィニの向こう側ではツクシがくすりと笑んでいた。
「ウルくんはほんと、シノちゃんが大好きだよね~」
「ぼくもシノお姉ちゃん、すき」
 張り合うようにテオが挙手した。ツクシはますます楽しそうに笑っている。
「……私も好き、ですよ」
 ウルフィニが慈乃の腕の中でぱっと顔を上げた。花色の瞳は心細そうに揺れていた。
「これからも、いっしょにあそんでくれる? いなくならない?」
「はい。いなくなりませんよ」
「やくそく」
 ウルフィニが小指を立てた右手を差し出す。慈乃も同じように手を出すと、互いの小指を絡めた。指をきると、ウルフィニは満足げな笑みを見せた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

婚約者に嫌われているようなので離れてみたら、なぜか抗議されました

花々
恋愛
メリアム侯爵家の令嬢クラリッサは、婚約者である公爵家のライアンから蔑まれている。 クラリッサは「お前の目は醜い」というライアンの言葉を鵜呑みにし、いつも前髪で顔を隠しながら過ごしていた。 そんなある日、クラリッサは王家主催のパーティーに参加する。 いつも通りクラリッサをほったらかしてほかの参加者と談笑しているライアンから離れて廊下に出たところ、見知らぬ青年がうずくまっているのを見つける。クラリッサが心配して介抱すると、青年からいたく感謝される。 数日後、クラリッサの元になぜか王家からの使者がやってきて……。 ✴︎感想誠にありがとうございます❗️ ✴︎(承認不要の方)ご指摘ありがとうございます。第一王子のミスでした💦 ✴︎ヒロインの実家は侯爵家です。誤字失礼しました😵

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

巻き込まれたおばちゃん、召喚聖女ちゃんのお母さんになる

戌葉
ファンタジー
子育てが終わりこれからは自分の時間を楽しもうと思っていたある日、目の前で地面へと吸い込まれていく女子高生を助けようとして、自分も吸い込まれてしまった。 え?異世界?この子が聖女? ちょっと、聖女ちゃんは普通の女の子なのよ?四六時中監視してたら聖女ちゃんの気が休まらないでしょう。部屋から出なさい!この国、いまいち信用できないわね。 でも、せっかく異世界に来たなら、新しいことに挑戦したい。まずは冒険者ね! 聖女召喚に巻き込まれたおばちゃんが、聖女ちゃんの世話を焼いたり、冒険者になってみたりする話。 理不尽に振り回される騎士様の話も。 「悪役令嬢と私の婚約破棄」と同じ世界です。

不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。 次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。 時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く―― ――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。 ※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。 ※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。

ご期待に沿えず、誠に申し訳ございません

野村にれ
恋愛
人としての限界に達していたヨルレアンは、 婚約者であるエルドール第二王子殿下に理不尽とも思える注意を受け、 話の流れから婚約を解消という話にまでなった。 ヨルレアンは自分の立場のために頑張っていたが、 絶対に婚約を解消しようと拳を上げる。

転生弁護士のクエスト同行記 ~冒険者用の契約書を作ることにしたらクエストの成功率が爆上がりしました~

昼から山猫
ファンタジー
異世界に降り立った元日本の弁護士が、冒険者ギルドの依頼で「クエスト契約書」を作成することに。出発前に役割分担を明文化し、報酬の配分や責任範囲を細かく決めると、パーティ同士の内輪揉めは激減し、クエスト成功率が劇的に上がる。そんな噂が広がり、冒険者は誰もが法律事務所に相談してから旅立つように。魔王討伐の最強パーティにも声をかけられ、彼の“契約書”は世界の運命を左右する重要要素となっていく。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

俺たちは魔法が使えるだけの普通の男子ですが?

モルガナイト
BL
魔法と科学が混在する世界の日本に住む男子高校生・神田 暁(カンダ アカツキ)と年上の幼なじみ・郷中 幸也(サトナカ ユキヤ)を取り巻く仲間との温かく激しい日常です

処理中です...