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第二一話 世界の色は奪われて

第二一話 九

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 気づいたら真っ暗闇の中にひとりぽつんと立っていた。周囲は黒を塗りたくったような闇に覆われている。それにも関わらず視界ははっきりとしていた。
 不安を掻き立てられる黒の空間の中を慈乃はさまよい歩いた。しかし、行けども行けども出口らしきものは見当たらない。
「誰か、いませんか……?」
 次第に不安が焦燥に変わる。このままここから出られなかったらと思い、恐怖に身を竦ませた。理屈ではなく本能的な感覚で、ここにはいたくないと心が叫んでいた。
 頼りない足取りで前進を続けると一条の光が射しこむのが見えた。
『……』『……』『……』
 光の方から幽かな音が聴こえる。
 ほっと息を吐いた慈乃はそちらに駆け寄った。やっと光の下までたどり着くと思った瞬間、光はふっと掻き消えた。
「なんで……?」
 辺りは再び黒一色の風景に戻り、同時に世界は無音になった。


 はっとして、慈乃は飛び起きた。心臓が嫌な音をたてている。
(また、悪夢……)
 窓の方を見遣ると星明かりがカーテン越しにもれていた。まだ真夜中のようだ。
 しかしすぐに寝直す気にはなれなかった。
 夢の内容はおぼろげだが、不快な夢であることは覚えている。
 連日このように夢にうなされているため、疲労は蓄積される一方だ。心身はとうに悲鳴を上げていた。
 結局この後は一睡もできずに、朝を迎えた。
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