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第一九話 迷子の色
第一九話 四
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「それで、こっちがイヌタデだよ」
「シノお姉ちゃん、きいてる?」
テオとメリルに左右から声を掛けられ、慈乃ははっと我に返った。どうやらいつの間にかぼうっとしていたらしい。
「ご、ごめんなさい……」
テオとメリルは特に気を悪くした風ではなかったが、代わりに慈乃を心配するような視線を向けてきた。
「シノお姉ちゃん、つかれてるの?」
「なんだかあさからげんきがないよね……?」
小さいふたりも慈乃の変化を悟ったらしかった。テオとメリルにまで心配をかけていることを申し訳なく思いながら、慈乃は言葉を濁すため謝罪を口にした。
「心配かけて、ごめんなさい」
冷めた視線で心の中の自分が見つめてくる錯覚を起こす。
(ああ、また迷惑をかけてる……)
ため息を吐きそうになったが、子ども達の手前それは堪えた。
メリルが慈乃の袖を軽く引いた。
「あのね、あのね。シノお姉ちゃんにはにこにこってしてほしいの」
「え……」
メリルは言葉を探しては必死に紡ぐ。
「いまのお姉ちゃん、ないてるみたいにかなしそうだから。メリルもかなしくなっちゃうよ。だから、にこってして」
「メリルちゃん……」
ここで笑えれば良かったのだが、あいにくとそんな器用な真似はできないのが慈乃だった。その事実がより慈乃を追い詰める。微妙な空気になってしまい、慈乃が後悔しかけていたとき、ふとテオが声を上げた。
「お姉ちゃん、かみのいろどうしたの?」
唐突な指摘に慈乃の方が面食らってしまった。テオが言う『かみ』とは彼の視線から察するに『髪』のことだろう。慈乃は自身の髪を一房手に取った。
「あれ……?」
今朝、洗面台の鏡に向き合っているときには気づかなかったが、慈乃の髪色は白銀色から猫柳色に戻りかけており、輝く猫柳色といった具合になっていた。瞳の色は今確認しようがないが、この分ではおそらく黄金色から猫柳色に戻りかけているのだろう。
(人間に、戻りかけているの……?)
その推測に背筋が凍った。
あれだけ忌避していた存在に自身が戻ろうとしている。元より中途半端な存在ではあったが、妖精とは認められないという現実をまざまざと突き付けられて、慈乃の胸は音を立てて軋んだ。
まるで自分という存在を世界から否定されているようだ。
どこにいっても馴染めない。受け入れられない。
過去のトラウマと否定されることへの恐怖に慈乃は再び囚われかけたが、視界に入った二対の瞳に頭を振ってどうにかやり過ごした。
「えっと、草花の観察をしていたんですよね。これは何というお花なんですか?」
慈乃がようやく口をきいてくれたことに、メリルもテオもほっと安堵の表情を見せた。慈乃に問われて解説を再開した彼らを見守りながら、慈乃はひとり暗い感情を飲み込んだのだった。
「シノお姉ちゃん、きいてる?」
テオとメリルに左右から声を掛けられ、慈乃ははっと我に返った。どうやらいつの間にかぼうっとしていたらしい。
「ご、ごめんなさい……」
テオとメリルは特に気を悪くした風ではなかったが、代わりに慈乃を心配するような視線を向けてきた。
「シノお姉ちゃん、つかれてるの?」
「なんだかあさからげんきがないよね……?」
小さいふたりも慈乃の変化を悟ったらしかった。テオとメリルにまで心配をかけていることを申し訳なく思いながら、慈乃は言葉を濁すため謝罪を口にした。
「心配かけて、ごめんなさい」
冷めた視線で心の中の自分が見つめてくる錯覚を起こす。
(ああ、また迷惑をかけてる……)
ため息を吐きそうになったが、子ども達の手前それは堪えた。
メリルが慈乃の袖を軽く引いた。
「あのね、あのね。シノお姉ちゃんにはにこにこってしてほしいの」
「え……」
メリルは言葉を探しては必死に紡ぐ。
「いまのお姉ちゃん、ないてるみたいにかなしそうだから。メリルもかなしくなっちゃうよ。だから、にこってして」
「メリルちゃん……」
ここで笑えれば良かったのだが、あいにくとそんな器用な真似はできないのが慈乃だった。その事実がより慈乃を追い詰める。微妙な空気になってしまい、慈乃が後悔しかけていたとき、ふとテオが声を上げた。
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唐突な指摘に慈乃の方が面食らってしまった。テオが言う『かみ』とは彼の視線から察するに『髪』のことだろう。慈乃は自身の髪を一房手に取った。
「あれ……?」
今朝、洗面台の鏡に向き合っているときには気づかなかったが、慈乃の髪色は白銀色から猫柳色に戻りかけており、輝く猫柳色といった具合になっていた。瞳の色は今確認しようがないが、この分ではおそらく黄金色から猫柳色に戻りかけているのだろう。
(人間に、戻りかけているの……?)
その推測に背筋が凍った。
あれだけ忌避していた存在に自身が戻ろうとしている。元より中途半端な存在ではあったが、妖精とは認められないという現実をまざまざと突き付けられて、慈乃の胸は音を立てて軋んだ。
まるで自分という存在を世界から否定されているようだ。
どこにいっても馴染めない。受け入れられない。
過去のトラウマと否定されることへの恐怖に慈乃は再び囚われかけたが、視界に入った二対の瞳に頭を振ってどうにかやり過ごした。
「えっと、草花の観察をしていたんですよね。これは何というお花なんですか?」
慈乃がようやく口をきいてくれたことに、メリルもテオもほっと安堵の表情を見せた。慈乃に問われて解説を再開した彼らを見守りながら、慈乃はひとり暗い感情を飲み込んだのだった。
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