247 / 454
第一八話 蕾のリンドウ
第一八話 八
しおりを挟む
夕方になり、慈乃とニアはいつもより少し早めに夕食の準備に取り掛かっていた。仕込みは昨日していたが、余裕をもって準備しようとニアが言い出したからだ。
「予定より早く終わったら、リンに声かけてみない?」
未だ心の準備は整っていなかったが、いつまでも躊躇してはいられない。こういうことは早く終わらせてしまった方が精神衛生上良い。
「は、はい……」
慈乃が了承したのを確認して、ニアは準備の手を速めた。
料理が完成するころには学舎組が帰ってきた。ただいまの挨拶と同時に厨房に顔を出したのはスイセンだった。
「今日は歓迎会でしたよね。ぼくもお手伝いしましょうか」
「助かるー! じゃあ、完成した料理を運んでおいてくれる?」
「はい」
「ただいまー、ニア姉、シノ姉! 私も手伝うよ」
スイセンの後に続いて、カルリア達もやってくる。彼らの働きもあって、歓迎会の準備は整いつつあった。
「ちょうどいいし、後はあの子達に任せて、あたしたちはリンのとこに行ってみない?」
ニアの提案に慈乃は従った。
どこにいるのかと一階の廊下をうろついていると、すぐにリンドウは見つかった。ちょうどこちらも学び家の案内を終えたらしいウタセと一緒に、リンドウは保健室にいた。
「お疲れー!」
「あ、ニア姉。シノも」
ウタセは顔を上げると、どこか疲れを滲ませる笑顔で慈乃達を出迎えた。対してリンドウは一瞥しただけで、興味なさそうにまぶたを伏せる。長いまつ毛が影を作って憂いを帯びた雰囲気がますます強くなる。
そんな態度にも臆することなく、ニアは前へ進み出た。
「数時間ぶり、リン。歓迎会までまだ時間があるから、あたし達とちょっと話さない?」
「……」
リンドウは表情を変えず、反応も示さなかった。しかし、なおもニアは語りかけ続ける。
「あたしはニア。で、こっちがシノ。改めてよろしくね」
「よ、よろしくお願いします……」
手で示されて慈乃は小さく頭を下げた。ようやくリンドウの視線が動いたと思ったら、慈乃を射抜くように見つめていた。ほとんど睨まれているのに萎縮して、慈乃は二の句を告げなくなるが、リンドウは小さな小さな呟きをもらした。
「……あなたが……」
リンドウの右目の竜胆色の瞳はとにかく険しい。慈乃と宙で視線がかち合うと、彼はさっと視線を逸らした。
見かねたウタセが助け舟を出す。
「リンはちょっと疲れてるみたいなんだ。歓迎会には出るって言ってくれたから、それまでそっとしておいてくれると助かるな」
「そういうことなら仕方ないか。行こうか、シノ」
「……はい」
慈乃とニアはウタセに手を振られて保健室を後にした。
「予定より早く終わったら、リンに声かけてみない?」
未だ心の準備は整っていなかったが、いつまでも躊躇してはいられない。こういうことは早く終わらせてしまった方が精神衛生上良い。
「は、はい……」
慈乃が了承したのを確認して、ニアは準備の手を速めた。
料理が完成するころには学舎組が帰ってきた。ただいまの挨拶と同時に厨房に顔を出したのはスイセンだった。
「今日は歓迎会でしたよね。ぼくもお手伝いしましょうか」
「助かるー! じゃあ、完成した料理を運んでおいてくれる?」
「はい」
「ただいまー、ニア姉、シノ姉! 私も手伝うよ」
スイセンの後に続いて、カルリア達もやってくる。彼らの働きもあって、歓迎会の準備は整いつつあった。
「ちょうどいいし、後はあの子達に任せて、あたしたちはリンのとこに行ってみない?」
ニアの提案に慈乃は従った。
どこにいるのかと一階の廊下をうろついていると、すぐにリンドウは見つかった。ちょうどこちらも学び家の案内を終えたらしいウタセと一緒に、リンドウは保健室にいた。
「お疲れー!」
「あ、ニア姉。シノも」
ウタセは顔を上げると、どこか疲れを滲ませる笑顔で慈乃達を出迎えた。対してリンドウは一瞥しただけで、興味なさそうにまぶたを伏せる。長いまつ毛が影を作って憂いを帯びた雰囲気がますます強くなる。
そんな態度にも臆することなく、ニアは前へ進み出た。
「数時間ぶり、リン。歓迎会までまだ時間があるから、あたし達とちょっと話さない?」
「……」
リンドウは表情を変えず、反応も示さなかった。しかし、なおもニアは語りかけ続ける。
「あたしはニア。で、こっちがシノ。改めてよろしくね」
「よ、よろしくお願いします……」
手で示されて慈乃は小さく頭を下げた。ようやくリンドウの視線が動いたと思ったら、慈乃を射抜くように見つめていた。ほとんど睨まれているのに萎縮して、慈乃は二の句を告げなくなるが、リンドウは小さな小さな呟きをもらした。
「……あなたが……」
リンドウの右目の竜胆色の瞳はとにかく険しい。慈乃と宙で視線がかち合うと、彼はさっと視線を逸らした。
見かねたウタセが助け舟を出す。
「リンはちょっと疲れてるみたいなんだ。歓迎会には出るって言ってくれたから、それまでそっとしておいてくれると助かるな」
「そういうことなら仕方ないか。行こうか、シノ」
「……はい」
慈乃とニアはウタセに手を振られて保健室を後にした。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
異世界楽々通販サバイバル
shinko
ファンタジー
最近ハマりだしたソロキャンプ。
近くの山にあるキャンプ場で泊っていたはずの伊田和司 51歳はテントから出た瞬間にとてつもない違和感を感じた。
そう、見上げた空には大きく輝く2つの月。
そして山に居たはずの自分の前に広がっているのはなぜか海。
しばらくボーゼンとしていた和司だったが、軽くストレッチした後にこうつぶやいた。
「ついに俺の番が来たか、ステータスオープン!」
婚約破棄されたけど前世が伝説の魔法使いだったので楽勝です
sai
ファンタジー
公爵令嬢であるオレリア・アールグレーンは魔力が多く魔法が得意な者が多い公爵家に産まれたが、魔法が一切使えなかった。
そんな中婚約者である第二王子に婚約破棄をされた衝撃で、前世で公爵家を興した伝説の魔法使いだったということを思い出す。
冤罪で国外追放になったけど、もしかしてこれだけ魔法が使えれば楽勝じゃない?
人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚
咲良喜玖
ファンタジー
アーリア戦記から抜粋。
帝国歴515年。サナリア歴3年。
新国家サナリア王国は、超大国ガルナズン帝国の使者からの宣告により、国家存亡の危機に陥る。
アーリア大陸を二分している超大国との戦いは、全滅覚悟の死の戦争である。
だからこそ、サナリア王アハトは、帝国に従属することを決めるのだが。
当然それだけで交渉が終わるわけがなく、従属した証を示せとの命令が下された。
命令の中身。
それは、二人の王子の内のどちらかを選べとの事だった。
出来たばかりの国を守るために、サナリア王が判断した人物。
それが第一王子である【フュン・メイダルフィア】だった。
フュンは弟に比べて能力が低く、武芸や勉学が出来ない。
彼の良さをあげるとしたら、ただ人に優しいだけ。
そんな人物では、国を背負うことが出来ないだろうと、彼は帝国の人質となってしまったのだ。
しかし、この人質がきっかけとなり、長らく続いているアーリア大陸の戦乱の歴史が変わっていく。
西のイーナミア王国。東のガルナズン帝国。
アーリア大陸の歴史を支える二つの巨大国家を揺るがす英雄が誕生することになるのだ。
偉大なる人質。フュンの物語が今始まる。
他サイトにも書いています。
こちらでは、出来るだけシンプルにしていますので、章分けも簡易にして、解説をしているあとがきもありません。
小説だけを読める形にしています。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
実は、公爵家の隠し子だったルネリア・ラーデインは困惑していた。
なぜなら、ラーデイン公爵家の人々から溺愛されているからである。
普通に考えて、妾の子は疎まれる存在であるはずだ。それなのに、公爵家の人々は、ルネリアを受け入れて愛してくれている。
それに、彼女は疑問符を浮かべるしかなかった。一体、どうして彼らは自分を溺愛しているのか。もしかして、何か裏があるのではないだろうか。
そう思ったルネリアは、ラーデイン公爵家の人々のことを調べることにした。そこで、彼女は衝撃の真実を知ることになる。
言霊の魔造師~低ランクパーティさえ追放された劣等の僕が、オリジナルの魔術で英雄になるまでの話~
オニオン太郎
ファンタジー
『見返せ、世界を』
あまりの劣等ぶりから低ランクの冒険者パーティーさえ追い出されてしまったエル・ウィグリー。彼はある日、幼い頃から続けていた研究により、全く新しい魔術『言霊』を開発する。
極めて強力な言霊を扱い活躍の場を広げたエル。そんな彼の元に、同じく劣等種の少女フィオナが現れ、ひょんなことからエルは彼女の師匠としてフィオナに魔術を教えることとなる。
言霊の魔術を扱い、徐々に頭角を現す2人。世界から劣等種と嘲笑われたエル・ウィグリーたちは、やがてオリジナルの魔術で『劣等の星』と呼ばれる英雄へと成り上がっていく。
※タイトルの『魔造師』は「まぞうし」と呼びます
※なろうでも同じ作品を掲載してます。
異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。
お小遣い月3万
ファンタジー
異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。
夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。
妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。
勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。
ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。
夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。
夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。
その子を大切に育てる。
女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。
2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。
だけど子どもはどんどんと強くなって行く。
大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる