カモミールの福音 ～花と〈家族〉に癒される優しい世界の物語～

第一七話 夏の終わりに縁日を

第一七話 三

「その……おふたりから見て、彼はどうなんでしょう？」
　途端にウタセとニアは難しい顔をした。
「もうすぐ一二歳の男の子……。生い立ちから考えても、ちょっと苦労しそうだよね」
「そうねぇ。でもミト兄が選んできた子だし、そこまでする訳があるのかもね」
「訳、ですか……」
　そこで慈乃は読んでいる途中で感じた『思うところ』を思い返した。
（花守の状態や境遇も、私に少し似ているわ。それに……あの、雰囲気）
　無機質な瞳、無感情な表情。それは慈乃にも覚えのある雰囲気だった。この世の何にも興味がなくて、期待を抱けない、全てを諦めたかのような。まるで過去の自分を見ているようだと慈乃は思った。
　もしかしたら、ミトドリはリンドウと慈乃を無意識に重ねて見ていたのかもしれない。そして、そんなリンドウがひと際強く目に留まり、救いたいと思ったのかもしれなかった。
「それにしても、一八九日に来るって、もう三〇日もないじゃない」
　ニアの呆れた声に、慈乃ははっと我に返った。
「ミト兄はそういうところ大雑把だからね」
　ウタセは苦笑いを浮かべている。ニアは深いため息を吐いた。
「どの部屋をあてがうか決めて……ないんだろうなあ」
「まあ、男子の方はあと三部屋空いてるし。なんだったら僕がある程度準備しちゃうし、そこまで気にしなくて大丈夫だよ」
　ウタセに頼りきりなのもよくないと、慈乃はすかさず小さく挙手した。
「あ、私もお手伝いします……！」
　ウタセはにこりと嬉しそうに微笑んだ。
「本当？ シノが手伝ってくれるなら作業も捗りそうだなぁ」
「もちろん、あたしもやるわよ」
「うん、ありがとう」