カモミールの福音 ～花と〈家族〉に癒される優しい世界の物語～

第一五話 ひと夏の冒険

第一五話 七

そのフロリアはといえば物珍しそうに周囲をきょろきょろ見回している。満足いくまで観察をした彼女は、今度は慈乃に向き直った。
「ここは楽しいところだね」
「そうですね。いつ来ても賑やかで、活気にあふれています」
「ウィルもきらきらしてるし。きっとここでの仕事が楽しい証拠だね」
フロリアの慈愛に満ちた視線の先には厨房に注文を届け、次に呼ばれたテーブルに向かおうとするアウィルの姿があった。忙しそうだが充足感に満ちたその顔は、フロリアの言うようにきらきらと輝いていた。
「いい顔をしてますよね」
僅かに羨望をこめた慈乃の声色にフロリアは気づいたらしい。そして、こてんと首を傾げた。
「シノもおんなじ顔してるよ？」
「え？」
慈乃が不思議そうな顔をする一方で、フロリアは柔らかな笑顔を見せた。
「学び家の遠足で教会に来てくれたことがあったでしょ？ 子ども達といる慈乃、きらきらして見えたよ」
思いがけない言葉に慈乃は数度瞬きした。自分がそのように思われていたなんて、知りもしなかった。気恥ずかしさと嬉しさから、慈乃は小さくはにかんだ。フロリアはそんな慈乃を見て、笑みを深くした。