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第一五話 ひと夏の冒険
第一五話 一
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ちょうど非番だった慈乃はニアに頼まれたおつかいがてら街へ向かうことにした。
玄関を出ると照りつける太陽は目に痛いほど眩しく、真っ青な空には大きな白い雲が浮かんでいて、夏の盛りを感じさせた。丘を吹き抜ける風は生暖かい。
しかし、一望できる景色は色鮮やかで、不快な気分にはならなかった。
道の脇にはいかにも丈夫そうなオオバコやまだ緑色の葉のアメリカフウロがあり、そこからはみ出るようにコニシキソウ姿をのぞかせている。ぱっと見緑一色かと思われる丘だが、よく目を凝らすとイヌタデやネジバナ、ヒルザキツキミソウの赤やピンク、オニノゲシやセイヨウタンポポ、メマツヨイグサの黄が点々と確認できた。
見ただけで何の花か推測できるようになってきた。慈乃はその感覚を楽しみながら丘を下っていく。
街の喧騒と水の匂いが近づいてきたころ、三番地の入り口付近で慈乃は肩をつつかれた。
「やあ、シノ。元気にしてる?」
慈乃が振り向くとひとりの女性がひらひらと片手を振っていた。見覚えのある眩しい黄色の瞳と帽子からこぼれ落ちる美しい萌黄色の髪。
「え⁉ フロ……」
「あー、ダメダメ! 今日の私はそう、ハナとでも呼んで!」
慈乃がフロリアの名前を呼びきる前に制されてしまった。混乱しながらも慈乃は状況把握に努める。
玄関を出ると照りつける太陽は目に痛いほど眩しく、真っ青な空には大きな白い雲が浮かんでいて、夏の盛りを感じさせた。丘を吹き抜ける風は生暖かい。
しかし、一望できる景色は色鮮やかで、不快な気分にはならなかった。
道の脇にはいかにも丈夫そうなオオバコやまだ緑色の葉のアメリカフウロがあり、そこからはみ出るようにコニシキソウ姿をのぞかせている。ぱっと見緑一色かと思われる丘だが、よく目を凝らすとイヌタデやネジバナ、ヒルザキツキミソウの赤やピンク、オニノゲシやセイヨウタンポポ、メマツヨイグサの黄が点々と確認できた。
見ただけで何の花か推測できるようになってきた。慈乃はその感覚を楽しみながら丘を下っていく。
街の喧騒と水の匂いが近づいてきたころ、三番地の入り口付近で慈乃は肩をつつかれた。
「やあ、シノ。元気にしてる?」
慈乃が振り向くとひとりの女性がひらひらと片手を振っていた。見覚えのある眩しい黄色の瞳と帽子からこぼれ落ちる美しい萌黄色の髪。
「え⁉ フロ……」
「あー、ダメダメ! 今日の私はそう、ハナとでも呼んで!」
慈乃がフロリアの名前を呼びきる前に制されてしまった。混乱しながらも慈乃は状況把握に努める。
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