カモミールの福音 ～花と〈家族〉に癒される優しい世界の物語～

第一三話 夏風邪の魔法

第一三話 二七

　ぱっと見たところ、怪我や病気、風邪がぶり返したということではなさそうだ。するとクルルは盛大なため息を吐いた。
「察してよ。あたしの風邪がうつったんでしょ。気にするのは当然じゃない」
「そ、そうだったのですね……」
　慈乃とクルルのやり取りを見ていたウタセはくすくすと笑っていた。
「ウタ兄さんも、何がそんなに楽しいのよ」
「んー？ ふたりが仲良くなってて嬉しいなあって」
「もう！」
　クルルは耳まで真っ赤にしていたがまんざらでもなさそうだった。慈乃も微かに照れ笑いを浮かべる。
　慈乃が昼食を食べ終えると、クルルは立ち上がって空の盆を持った。
「戻るついでに返しておくわ。シノ姉さんも早く治してよね」
「ありがとうございます、クルルちゃん」
「またね、クルル」
　クルルは困ったような照れたような複雑な表情をしていた。
「クルルってば素直じゃないなあ」
　クルルの消えた廊下に視線をやりながら、ウタセは苦笑いした。
「でも、今ではわかりやすくてかわいいと思いますよ」
「確かに」
　慈乃とウタセは顔を見合わせて小さく笑った。
「さて、シノはちゃんと休むこと。ベッドに戻ってね」
　お腹が満たされたことも相まって、睡魔が慈乃を襲う。慈乃は頷くと、ベッドで横になった。まもなく訪れたまどろみに慈乃は意識を預けた。