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第一三話 夏風邪の魔法
第一三話 一〇
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ひとしきり話し終えると、さすがにクルルは疲れを見せ始めた。慈乃がそろそろ眠るように勧めると、クルルはうとうとしながらぽつりと呟いた。
「お願い、きいてくれてありがとう」
「お願い、ですか?」
「寝るまでの間話し相手になってってさっき言ったでしょ。……あたしの両親ね、あたしが風邪をひいても側にいてくれたことないの。あたしのこと厄介払いしたがってるのはわかってたけど、昔はそれが寂しくて心細かった」
「……」
慈乃は黙ってクルルの語りを聞いていた。叔父の家での自身の境遇と影が重なった気がした。
「不思議よね。血の繋がってない家族の方があたしのことを大事にしてくれるなんて。でも、今のあたしの家も家族もここにある。あたしはそれを幸せだって思えるわ、シノ姉さん達のおかげでね」
「……はい」
「ありがとう」
その言葉を最後に、クルルは寝息を立て始める。慈乃は布団を丁寧に掛け直すとカーテン内から出た。そして保健室のデスク前にある椅子に腰かけた。
クルルの素直な言葉が聞けて嬉しい反面、彼女の過去をその口から聞くと胸が苦しくもなる。それでも鬱屈せずに凛としているクルルの強さに感銘を受けた。自分にはない強さをクルルは持っている。そのことが羨ましいというよりも誇らしいと思うのは『家族』であり、『姉』だからだと信じられるのは自惚れではないはずだ。
「お願い、きいてくれてありがとう」
「お願い、ですか?」
「寝るまでの間話し相手になってってさっき言ったでしょ。……あたしの両親ね、あたしが風邪をひいても側にいてくれたことないの。あたしのこと厄介払いしたがってるのはわかってたけど、昔はそれが寂しくて心細かった」
「……」
慈乃は黙ってクルルの語りを聞いていた。叔父の家での自身の境遇と影が重なった気がした。
「不思議よね。血の繋がってない家族の方があたしのことを大事にしてくれるなんて。でも、今のあたしの家も家族もここにある。あたしはそれを幸せだって思えるわ、シノ姉さん達のおかげでね」
「……はい」
「ありがとう」
その言葉を最後に、クルルは寝息を立て始める。慈乃は布団を丁寧に掛け直すとカーテン内から出た。そして保健室のデスク前にある椅子に腰かけた。
クルルの素直な言葉が聞けて嬉しい反面、彼女の過去をその口から聞くと胸が苦しくもなる。それでも鬱屈せずに凛としているクルルの強さに感銘を受けた。自分にはない強さをクルルは持っている。そのことが羨ましいというよりも誇らしいと思うのは『家族』であり、『姉』だからだと信じられるのは自惚れではないはずだ。
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