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第一一話 雨の休日
第一一話 四
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感心しきりのニアは一回休みであるため、ソラルは黙ってさいころを回した。
「一……。イメージチェンジのあのマスですね」
悩むソラルに、いつもの調子を取り戻し始めたトゥナが提案した。
「オレとお揃いにしない?」
「なぜお揃いにする必要が? 嫌です」
すっぱり断られたトゥナは悄然と肩を落とした。落ち込んでばかりのトゥナを憐れに思ったニアは「まあいいじゃない、減るもんじゃないし」とソラルの片三つ編みを解きだし、トゥナと同じようにハーフアップに結い直した。
「完成っと。ほら、トゥナ。元気出しなって」
「ソラくん……!」
ソラルは文句の一つでも言ってやろうとしていたが、トゥナの輝く視線を受けて、何も言い返せなくなってしまった。
「ソラくんはトゥナくんと本当に仲良しですよね」
慈乃がくすりと微笑めば、ニアもそれに追随した。
「わかるー? 普段ならソラがトゥナをいじり倒すのに、トゥナが本当に弱ってるときに限って優しくしちゃうのよー?」
「このすごろくは、もう……っ!」
やり場のない羞恥と憤怒を吐き出して、ソラルは両手を床についてうなだれた。
慈乃は視界の片隅にソラルの姿を留めながら、とりあえずさいころを振る。出た目は四だった。
「『現在最下位のひとの好きなところを伝えよう』、ですね」
現在最下位であるトゥナをちらりと見遣る。
一つの季節を共に過ごしてきて、トゥナのひととなりもよく見てきたつもりだ。慈乃の口からは、すんなりと好きなところが出てきた。
「トゥナくんは、気配り上手ですよね。周りのことをよく見ていて、優しくできるのは、尊敬します」
「シノ姉、そんな風に思ってくれてたんだ……!」
トゥナは感激をあらわに、目を潤ませる。そして、いまだ意気消沈しているソラルを振り返った。
「ソラくん! このすごろくは失敗作なんかじゃなかったよ……!」
「……そうです? 否定しなくていいんですか、キャラがぶれているのでは……」
「いやー、シノ姉に言われちゃうとね。これがガザ兄とかでからかわれたんだったら、思うところもあるだろうけどさ」
ソラルにリクエストを聞いてもらい、慈乃に率直に褒められたトゥナはすっかり機嫌を直していた。彼らしく朗らかに笑う。
静かに開眼してさいころを投げたタムが出したのは一だった。進んだ先のマスには『最初に戻る』の指示があり、それに従う。
「トゥナとおんなじところだね。戻ってきちゃった」
それほど残念にも思っていないのか、平坦な声音で呟いた。
ようやく順番が巡ってきたトゥナは、気合いを入れて勢いよくさいころを回した。
「やった! 四だ!」
トゥナは言いながら自身のコマを、ヨルメイの母親のコマに並べた。
「大躍進じゃないの」
ニアが軽く口笛を吹いた。
トゥナが追いついたことで負けられないと思ったヨルメイも「えい!」と勢いをつけてさいころを振るが、結果はふるわず一が出た。しかも指示のあるマスには『ものまね』の一言が記されている。
ヨルメイは小首を傾げた。
「つまり、私がものまねをすればいいってことですか?」
「そうだよ」
ヨルメイの左隣で、ゲームの勝手がわかっているトゥナが軽く頷く。
ヨルメイはしばし瞑目したものの、「では」と言って瞼を持ち上げた。
「アスちゃんの真似をします」
ヨルメイが選んだのは彼女と同い年であり、最も仲の良い友人でもあるアスキだった。ヨルメイは宣言後、にっこりと微笑みを浮かべた。
「……似てました?」
それに最初に答えたのはニアである。
「笑ってるヨル、かわいい!」
ニアは左隣にヨルメイがいるのをいいことに、抱きしめては頭を撫でまわす。
「わあっ。ニ、ニア姉さん……!」
ヨルメイが戸惑った声をあげるが、それすらも愛しげにニアは笑みを深めるばかりだ。
傍らではトゥナとソラルが顔を見合わせていた。
「似てるといえば似てる?」
「確かにアスキは滅多にしゃべりませんけど……ありなんですか、これ?」
「ニア姉の言うこと、わかるよ」
タムがぽつりと呟く。慈乃は隣に座っているのでその声もよく聞こえた。
「ふふ、ですね」
緩んだ空気に、慈乃も小さな笑い声をもらす。
「一……。イメージチェンジのあのマスですね」
悩むソラルに、いつもの調子を取り戻し始めたトゥナが提案した。
「オレとお揃いにしない?」
「なぜお揃いにする必要が? 嫌です」
すっぱり断られたトゥナは悄然と肩を落とした。落ち込んでばかりのトゥナを憐れに思ったニアは「まあいいじゃない、減るもんじゃないし」とソラルの片三つ編みを解きだし、トゥナと同じようにハーフアップに結い直した。
「完成っと。ほら、トゥナ。元気出しなって」
「ソラくん……!」
ソラルは文句の一つでも言ってやろうとしていたが、トゥナの輝く視線を受けて、何も言い返せなくなってしまった。
「ソラくんはトゥナくんと本当に仲良しですよね」
慈乃がくすりと微笑めば、ニアもそれに追随した。
「わかるー? 普段ならソラがトゥナをいじり倒すのに、トゥナが本当に弱ってるときに限って優しくしちゃうのよー?」
「このすごろくは、もう……っ!」
やり場のない羞恥と憤怒を吐き出して、ソラルは両手を床についてうなだれた。
慈乃は視界の片隅にソラルの姿を留めながら、とりあえずさいころを振る。出た目は四だった。
「『現在最下位のひとの好きなところを伝えよう』、ですね」
現在最下位であるトゥナをちらりと見遣る。
一つの季節を共に過ごしてきて、トゥナのひととなりもよく見てきたつもりだ。慈乃の口からは、すんなりと好きなところが出てきた。
「トゥナくんは、気配り上手ですよね。周りのことをよく見ていて、優しくできるのは、尊敬します」
「シノ姉、そんな風に思ってくれてたんだ……!」
トゥナは感激をあらわに、目を潤ませる。そして、いまだ意気消沈しているソラルを振り返った。
「ソラくん! このすごろくは失敗作なんかじゃなかったよ……!」
「……そうです? 否定しなくていいんですか、キャラがぶれているのでは……」
「いやー、シノ姉に言われちゃうとね。これがガザ兄とかでからかわれたんだったら、思うところもあるだろうけどさ」
ソラルにリクエストを聞いてもらい、慈乃に率直に褒められたトゥナはすっかり機嫌を直していた。彼らしく朗らかに笑う。
静かに開眼してさいころを投げたタムが出したのは一だった。進んだ先のマスには『最初に戻る』の指示があり、それに従う。
「トゥナとおんなじところだね。戻ってきちゃった」
それほど残念にも思っていないのか、平坦な声音で呟いた。
ようやく順番が巡ってきたトゥナは、気合いを入れて勢いよくさいころを回した。
「やった! 四だ!」
トゥナは言いながら自身のコマを、ヨルメイの母親のコマに並べた。
「大躍進じゃないの」
ニアが軽く口笛を吹いた。
トゥナが追いついたことで負けられないと思ったヨルメイも「えい!」と勢いをつけてさいころを振るが、結果はふるわず一が出た。しかも指示のあるマスには『ものまね』の一言が記されている。
ヨルメイは小首を傾げた。
「つまり、私がものまねをすればいいってことですか?」
「そうだよ」
ヨルメイの左隣で、ゲームの勝手がわかっているトゥナが軽く頷く。
ヨルメイはしばし瞑目したものの、「では」と言って瞼を持ち上げた。
「アスちゃんの真似をします」
ヨルメイが選んだのは彼女と同い年であり、最も仲の良い友人でもあるアスキだった。ヨルメイは宣言後、にっこりと微笑みを浮かべた。
「……似てました?」
それに最初に答えたのはニアである。
「笑ってるヨル、かわいい!」
ニアは左隣にヨルメイがいるのをいいことに、抱きしめては頭を撫でまわす。
「わあっ。ニ、ニア姉さん……!」
ヨルメイが戸惑った声をあげるが、それすらも愛しげにニアは笑みを深めるばかりだ。
傍らではトゥナとソラルが顔を見合わせていた。
「似てるといえば似てる?」
「確かにアスキは滅多にしゃべりませんけど……ありなんですか、これ?」
「ニア姉の言うこと、わかるよ」
タムがぽつりと呟く。慈乃は隣に座っているのでその声もよく聞こえた。
「ふふ、ですね」
緩んだ空気に、慈乃も小さな笑い声をもらす。
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