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第一一話 雨の休日
第一一話 二
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「また、このコマを見る日が来ようとは……」
ソラルは小箱から厚紙でできたさいころと六つのコマを取り出す。コマは前回も使用したキメ顔の美青年の顔、優しげな母親らしき顔、山姥の顔、好々爺の顔、泣き叫ぶ赤子の顔に加えて、悟りを開いた仙人の顔を用意した。
「怖い……」
ヨルメイが正直な感想をもらす。かたやニアはコマをつまみ上げ、まじまじと眺めた。
「よくできてるー。これ作ったのツクシ?」
「らしいですよ」
慈乃も淡々と頷き返すだけだ。
さいころを回して順番とコマを決める。一番目はニアで、コマは山姥。二番目はヨルメイで、母親。三番目はトゥナで、美青年。四番目はタムで仙人。五番目は慈乃で、好々爺。最後がソラルで赤子といった具合だ。
わかりやすいように順番通りに車座になったところで、ニアがさいころを振った。出目は三。止まったのは指示ありのマスだった。
「最近あった嬉しいこと、ねえ」
ニアは最近の出来事を思い出しているようだった。ニアのことだから、ありすぎてどれにしようといったところだろう。やがて、手を叩いた。
「シノに頼み込んで『ニア姉』って呼んでもらったこと!」
慈乃は一昨日の朝のことを思い返す。
「みんな愛称で呼んでもらってるのに、あたしは名前が短いし姉って言うのも気が引けるっていうから、一回だけってお願いしたんだよね」
「そんなに喜んでいただけるとは思いませんでした」
慈乃がほんのり頬を朱に染めて呟くと、ニアは「かわいいんだから!」と破顔した。
「ヨルメイちゃん、どうぞ振っちゃって」
トゥナに促されて、ヨルメイはさいころを回した。
「五……。あ、トゥナ兄さんをとばすみたいです」
ヨルメイは申し訳なさそうにトゥナを横目で見上げた。
「……。大丈夫、慣れてるから」
トゥナは深呼吸を一つして、ヨルメイに笑いかけた。どこか諦めのにじむ笑みだった。
「既視感がすごいですね」
「うう。言わないで、ソラくん」
タムは落ち込むトゥナの目の前に腕を伸ばして、ヨルメイのもとにあったさいころを引き寄せた。
「出た、一」
一のマスは、もう一度さいころを振って偶数が出たら七にいけるというものだ。タムが二度目に出したのは三だったので、コマは一で停止したままだった。
「はい、シノ姉の番」
タムから受け取ったさいころを振る。出たのは二で、指示はなかった。
次はソラルで、出目は三。ニアと同じマスだ。
「嬉しかったこと……。昨日の夕飯にキクラゲが出たことです」
「やーっぱりー? いやぁ、絶対ソラは喜ぶと思った!」
ニアはにっかり笑って、右隣に座るソラルの背を叩いた。慈乃も夕飯の支度を手伝っているので、ソラルの感想に嬉しくなった。自然と顔がほころぶ。
「痛いです、ニアさん。そして、さっさとさいころを振ってください」
ソラルが早口でいうのも単なる照れ隠しだとわかっているニアは、にやにやした笑みをそのままにさいころを振った。
ソラルは小箱から厚紙でできたさいころと六つのコマを取り出す。コマは前回も使用したキメ顔の美青年の顔、優しげな母親らしき顔、山姥の顔、好々爺の顔、泣き叫ぶ赤子の顔に加えて、悟りを開いた仙人の顔を用意した。
「怖い……」
ヨルメイが正直な感想をもらす。かたやニアはコマをつまみ上げ、まじまじと眺めた。
「よくできてるー。これ作ったのツクシ?」
「らしいですよ」
慈乃も淡々と頷き返すだけだ。
さいころを回して順番とコマを決める。一番目はニアで、コマは山姥。二番目はヨルメイで、母親。三番目はトゥナで、美青年。四番目はタムで仙人。五番目は慈乃で、好々爺。最後がソラルで赤子といった具合だ。
わかりやすいように順番通りに車座になったところで、ニアがさいころを振った。出目は三。止まったのは指示ありのマスだった。
「最近あった嬉しいこと、ねえ」
ニアは最近の出来事を思い出しているようだった。ニアのことだから、ありすぎてどれにしようといったところだろう。やがて、手を叩いた。
「シノに頼み込んで『ニア姉』って呼んでもらったこと!」
慈乃は一昨日の朝のことを思い返す。
「みんな愛称で呼んでもらってるのに、あたしは名前が短いし姉って言うのも気が引けるっていうから、一回だけってお願いしたんだよね」
「そんなに喜んでいただけるとは思いませんでした」
慈乃がほんのり頬を朱に染めて呟くと、ニアは「かわいいんだから!」と破顔した。
「ヨルメイちゃん、どうぞ振っちゃって」
トゥナに促されて、ヨルメイはさいころを回した。
「五……。あ、トゥナ兄さんをとばすみたいです」
ヨルメイは申し訳なさそうにトゥナを横目で見上げた。
「……。大丈夫、慣れてるから」
トゥナは深呼吸を一つして、ヨルメイに笑いかけた。どこか諦めのにじむ笑みだった。
「既視感がすごいですね」
「うう。言わないで、ソラくん」
タムは落ち込むトゥナの目の前に腕を伸ばして、ヨルメイのもとにあったさいころを引き寄せた。
「出た、一」
一のマスは、もう一度さいころを振って偶数が出たら七にいけるというものだ。タムが二度目に出したのは三だったので、コマは一で停止したままだった。
「はい、シノ姉の番」
タムから受け取ったさいころを振る。出たのは二で、指示はなかった。
次はソラルで、出目は三。ニアと同じマスだ。
「嬉しかったこと……。昨日の夕飯にキクラゲが出たことです」
「やーっぱりー? いやぁ、絶対ソラは喜ぶと思った!」
ニアはにっかり笑って、右隣に座るソラルの背を叩いた。慈乃も夕飯の支度を手伝っているので、ソラルの感想に嬉しくなった。自然と顔がほころぶ。
「痛いです、ニアさん。そして、さっさとさいころを振ってください」
ソラルが早口でいうのも単なる照れ隠しだとわかっているニアは、にやにやした笑みをそのままにさいころを振った。
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