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第一〇話 日常の一幕
第一〇話 九
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ニアは一足先に厨房へ行って、昼食の支度を始めた。まだ話し合いを続けたいというウタセとミトドリを保健室に残し、慈乃達は食堂へ戻った。
食堂でおえかきをしていたツクシ達が一斉に顔を上げる。
「おかえりなさ~い。社会科見学はどうだったかしら~?」
「おやつ食べたんだ。金平糖とおかき!」
「あとは梅雨にやりたいことも話したわ」
レヤとホノが口々に答えるのへ、ツクシは「うんうん~」と楽しそうに相槌を打った。話を楽しんでいるのか、お土産を期待しているのかは定かではない。
「お父さんはどこいってたの?」
テオは首を傾げてスギナを見上げた。スギナはすまし顔で「出張」と一言。保育士という設定も無視したような発言だったが、テオは出張の意味がよくわからなかったのか「そうなんだ」とだけ言った。
「出張土産もあるぞ。ツクシ以外に」
余った金平糖は三等分にして包んでもらっていた。テオ達はお礼を言って、それを受け取る。
一方、ツクシは唇を尖らせた。
「お母さんだけのけ者なんて~、お父さん冷たいわ~」
ツクシの非難の声に対して、スギナは鼻で笑い返した。
「こっちの仕事を中断させておいて面白い呼ばわりするやつに土産なんてねえ。お前には土産話で十分だろ」
「あ~! ニアちゃんから聞いたんだ~。そのくらい根に持たないでよ~」
言われっぱなしのツクシは助けを求めるように慈乃へ視線をやった。しかし、すげなく返したのはスギナだった。
「シノは加担もしなかったけど反対もしなかったぞ」
「うそ~!」
不満そうな顔を見せたものの、スギナと言葉の応酬をするツクシはいきいきとしていた。スギナもなんだかんだと言いながら、ツクシにいちいち返している。
ふたりが同時に慈乃を振り返った。
「む~。シノちゃん、お土産本当にないの~?」
「土産話だけ聞かせてやれば?」
平等な関係性を築くふたりの間に、当たり前のように慈乃も招いてもらえる。そのことに慈乃はくすぐったさを感じた。
慈乃は頬を緩めて、隠し持っていた金平糖の包みをツクシに差し出した。気の優しい慈乃を気遣って、ウタセが持たせてくれたものだ。ツクシにあげるもよし、子ども達に分けるもよし、慈乃自身が食べるもよし。好きにしたらいいよと言われて、もらった。
「わ~い、シノちゃん大好き~」
「現金なやつ。シノも餌付けはほどほどにしとけよ」
金平糖に飛びつくツクシを呆れた目で見て、スギナはため息を吐いた。彼も気は済んだようで、それきりその話題を蒸し返すことはなかった。
土産話はホノ達に任せることにして、慈乃は昼食の準備をするために厨房に向かった。
食堂でおえかきをしていたツクシ達が一斉に顔を上げる。
「おかえりなさ~い。社会科見学はどうだったかしら~?」
「おやつ食べたんだ。金平糖とおかき!」
「あとは梅雨にやりたいことも話したわ」
レヤとホノが口々に答えるのへ、ツクシは「うんうん~」と楽しそうに相槌を打った。話を楽しんでいるのか、お土産を期待しているのかは定かではない。
「お父さんはどこいってたの?」
テオは首を傾げてスギナを見上げた。スギナはすまし顔で「出張」と一言。保育士という設定も無視したような発言だったが、テオは出張の意味がよくわからなかったのか「そうなんだ」とだけ言った。
「出張土産もあるぞ。ツクシ以外に」
余った金平糖は三等分にして包んでもらっていた。テオ達はお礼を言って、それを受け取る。
一方、ツクシは唇を尖らせた。
「お母さんだけのけ者なんて~、お父さん冷たいわ~」
ツクシの非難の声に対して、スギナは鼻で笑い返した。
「こっちの仕事を中断させておいて面白い呼ばわりするやつに土産なんてねえ。お前には土産話で十分だろ」
「あ~! ニアちゃんから聞いたんだ~。そのくらい根に持たないでよ~」
言われっぱなしのツクシは助けを求めるように慈乃へ視線をやった。しかし、すげなく返したのはスギナだった。
「シノは加担もしなかったけど反対もしなかったぞ」
「うそ~!」
不満そうな顔を見せたものの、スギナと言葉の応酬をするツクシはいきいきとしていた。スギナもなんだかんだと言いながら、ツクシにいちいち返している。
ふたりが同時に慈乃を振り返った。
「む~。シノちゃん、お土産本当にないの~?」
「土産話だけ聞かせてやれば?」
平等な関係性を築くふたりの間に、当たり前のように慈乃も招いてもらえる。そのことに慈乃はくすぐったさを感じた。
慈乃は頬を緩めて、隠し持っていた金平糖の包みをツクシに差し出した。気の優しい慈乃を気遣って、ウタセが持たせてくれたものだ。ツクシにあげるもよし、子ども達に分けるもよし、慈乃自身が食べるもよし。好きにしたらいいよと言われて、もらった。
「わ~い、シノちゃん大好き~」
「現金なやつ。シノも餌付けはほどほどにしとけよ」
金平糖に飛びつくツクシを呆れた目で見て、スギナはため息を吐いた。彼も気は済んだようで、それきりその話題を蒸し返すことはなかった。
土産話はホノ達に任せることにして、慈乃は昼食の準備をするために厨房に向かった。
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