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第八話 遠足はブーゲンビリアに彩られて

第八話 一〇

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 多忙なフロリアとの面会は長時間を取るわけにもいかず、ひとりずつに声を掛け終え、手を振るフロリアに見送られて、皆は礼拝堂を後にした。
 今度は三番地の方角に向かって歩を進めていく。
 道の両脇には慈乃達を迎えるように、チューリップやパンジー、スイセンが咲き乱れている。ペチュニアやサフィニアもきれいだと思うけれど、見慣れたこちらの花々のほうが親しみを持てた。
 帰っているという安心感からか、つい気が緩みそうになってしまうが「遠足は家に着くまでだからな」というスギナの声にどきりとした。どうやら慈乃に向かって言ったのではなさそうだが、慈乃は気を引き締め直した。
 三番地に入り、街を過ぎ、小丘を上っていく。今や顔なじみとなった住民に挨拶されながら、さらに先を進むと一気に視界が拓けて、花園が広がった。
 ここまでくれば学び家はもう目と鼻の先だ。
 レヤとフィオ、アヅにガザはまだ元気が有り余っているようで、なおはしゃぎまわっている。メリルやソラルは緊張を緩め、ヒイラギとスイセンは顔を見合わせ安堵の笑みを浮かべていた。
 学び家に到着する頃には、オレンジがかった夕空に変わっていた。
 玄関前で皆が集まるのを待ち、ニアは振り返る。
「今日の遠足、楽しかったひとー?」
「はーい」
「また行きたいひとー?」
「はーい!」
 きれいにそろった返事にニアは満足げに笑うと「じゃ、ひとまず解散」と手を打った。子ども達はぱらぱらと散っていく。
 その背を見送っていたら、風の囁きの間に声が聞こえた。
『いまの、カミユとシノみたいだったの~』『ね~』『小さい頃?』『小さい頃!』
「……そうですね。私もちょうど、懐かしく思っていました」
 母とふたりで近所の公園に行ったとき、父も交えて遠出したとき。その帰り道に母は決まって「楽しかったひと?」「また遊びに行きたいひと?」と慈乃に訊いた。慈乃もまた片手をあげて「はーい」とその日の疲れも感じさせないような元気な返事を必ずしたものだ。
「シノー、早く戻ろー? 夕飯の支度しないとー!」
「ええ、すぐに」
 あたたかな思い出を胸に抱き、慈乃は一歩を踏み出した。
 来た道も、進む道も、輝きに満ちたものだと信じて。
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