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第六話 優しい昔話

第六話 一

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 翌朝、朝の支度をするため脱衣所に向かった慈乃だったが、洗面台の鏡に映る自身の姿を思わずじっと見つめてしまった。
 そこにニアがやって来た。
「おっはよー! シ、ノ……?」
「あ、おはよう、ございます……」
 振り返る動きと同時に、慈乃の腰まである長い髪も翻る。その髪が白銀色に輝いた。ニアを映した瞳は黄金色に濡れている。
「一夜にして大変身……。さすがのあたしもびっくりした」
「私もです……。これも、花守になっているから、ですよね」
「後天的な花守はほとんどがそう。色素が花に寄るみたい」
 ニアはまじまじと慈乃の瞳を覗き込んだり、髪を触ったりした。
「綺麗な色ねー。でも、カモミールっぽくはない?」
「ですよね……。なんだか元の色と、混じりあったような色で……」
「あたしの予想では、髪は白色、目は黄色になると思う。スイみたいな」
「なんだか、今の色は目立ってしまい、落ち着かない、です……」
 有り体に言ってしまえば金と銀という豪華絢爛な色合いである。ひと目を惹くことは避けられないだろう。いうまでもなく控えめな慈乃には、それが気になって仕方がない。
「いいじゃん、かっこいいって。そのうち慣れる!」
 そのままニアに押し切られるようにして、朝の支度を済ませ、仕事に取り掛かった。

 慈乃の懸念は当たった。
 慈乃の過去を根掘り葉掘り訊かない分別があった学び家の皆も、一夜で様変わりした慈乃の姿にはさすがに何があったか訊かずにはいられないようで、挨拶の次の言葉は一様に「どうしたの?」だった。
 登校時間との戦いである朝だったので、慈乃が「花守になりかけ、みたいです」と答えれば、大抵は納得したようでそれ以上追及されることがなかったことだけが唯一の救いである。
 学校へと子ども達を送り出した後は、洗濯物を干すために再び外に出た。
 おもむろに見上げた空は雲ひとつない晴天である。
「ふふっ。キラキラだね」
 声のした方を振り向くと、洗濯籠を抱えたウタセがにこにこして立っていた。
「たまーに銀色っぽく見えることはあったけど、見事に変わったね」
「え……?」
「気づいてなかった? 光が反射すると銀色に見えることがあったんだよ」
 歩きながらウタセは話し続ける。慈乃も隣に並んだ。
「僕も後から花守になったんだけど、じわじわ変わっていったからシノみたいにはならなかったなぁ」
「先天的、ではないのですね」
「うん。ちょっとしたきっかけがあって花守になったんだよ。もともとは髪も目も栗色で明るい色だったから、今の色になってもそんなに驚かなかったんだよね」
 慈乃だったらそれでも驚きそうなものだが、そこはウタセだからか大して気にもしなかったようだ。
「そこまで明らかな変化があるってことは、昨日何かあったんだ?」
「カモミールの精と……ちゃんと、話せたのです」
 それ以上は語らなかったが、慈乃の穏やかな表情を見てウタセは安心したようで「そっか、良かったね」と柔らかに言った。
 洗濯物を干しながら、昨日の出来事を話していると、いつもの倍の洗濯籠を持ったニアが現れた。
「重かったー!」
「これ、ツクシの分じゃないの?」
 ウタセが持ってきていた分は既に終わっていたので、ツクシの分だという洗濯物にも手を伸ばす。
「ウルがグリンピース食べないから、そっちについてる」
「また食べないの? この間はなんとか食べてたけど」
「調理法の問題じゃない? 要研究だわ」
 ニアは話しながらも次々洗濯物を干していく。服のしわを伸ばすバサッバサッという音が小気味良いリズムを奏でる。
「あああ、またティッシュを入れて……」
「て、手伝います……!」
 ウタセが嘆いていたので、手が空いた慈乃もそちらを手伝った。
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