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第五話 誕生に感謝と祝福を
第五話 七
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楽しい時間はあっという間に過ぎ、誕生会はお開きとなった。
食事の片付けをさせてもらえなかったこと以外は、就寝まではいつもと変わらず、慈乃は入浴後自室に戻ると、翌日の支度を済ませた。
机に置いていたメダルを手に取って、じっと眺めてみる。メダルに描かれたシノは、やはりなんとなく微笑んでいた。
慈乃の歓迎会が行われた日には、扉飾りやキーホルダーを贈られ、居場所を与えられた。今日もまた、心のこもった贈り物を受け取り、生まれてきたことを祝福された。
まるで、いままで真っ白だった時間を埋めるように、ここ一か月ほどは色に満ち溢れた毎日だと思う。
そんな日々は、僅かずつでも、確かに慈乃を変えていた。
失ってしまった時の哀しみを知ってからは、慈乃は大事なものを持っていることが怖くて、増やさないようにしていた。
しかし、今は大事なものがこうして増えていることを、素直に嬉しいと感じる。それとともに湧き上がる感情は感謝だった。
この世界での出会いがなかったら、現在の慈乃はきっといない。
慈乃を変えてくれたひと達に報いたいと心から思うから、自身に出来ることは惜しまずやりたいし、そんなひと達の幸せを祈り、その笑顔をもっと見てみたいとも思う。
そしてそれが、明日を生きたいという願いにも変わる。
メダルは保管しようか、飾ろうか、少し迷ったものの、結局飾ることにした。ちょうど机の前の壁にコルクボードがあるので、そこに掛ける。
いつか、このコルクボードが大事なもので埋め尽くされる日が来るのだろうか。そんな未来を夢想した。
そのとき、背後から鈴のような音が聴こえた。
振り返った先には、低めの棚があり、その上には、カモミールと午前中の柄を裂いたナズナが同じ花瓶に活けてあり、隣には水を張った浅いガラスの器に誕生会で拾ったいくつかの花々がぷかぷかと浮かんでいる。さらに隣には、タンポポオバケが置かれている。
窓からそよ風が入り込むと、また鈴音が鳴った。
しばらく耳をすませていると、鈴の音はやがて声に変わった。
『シノ、おめでとうなの~』『お久しぶりだね』『ね~』
それらしき囁き声は何度か耳にしたが、まともな会話をしたのは歓迎会の夜以来である。
『今日は調子がいいのかな』『天気? 気温? それとも体調?』『違うよ~、シノがルンルンだからだよ~』
「えっと……」
慈乃が困惑気味に声をあげると、カモミールの精のざわめきが止んだ。
「こ、この間は……訊きたいことも言いたいこともあったのに、言えなくて……。今日は、時間はありそう、ですか……?」
『わかんない』『けどけど、なんか今日はいい感じなの~』
若干の不安は残るものの、言い淀んでいる時間すらも惜しいので、慈乃は思い切って心を決めた。
「訊きたいことは……、母はカモミールの花守で、私のことを頼まれていたのでは、ということ、です」
『そうだね』『カミユはカモミールの花守だったよ』『シノのこともよろしくされたよ~』『前にちょっとだけ言ったことあったけど』
そう言って語りだしたのは、カミユとカモミールの遠い昔に交わした約束の話だった。
食事の片付けをさせてもらえなかったこと以外は、就寝まではいつもと変わらず、慈乃は入浴後自室に戻ると、翌日の支度を済ませた。
机に置いていたメダルを手に取って、じっと眺めてみる。メダルに描かれたシノは、やはりなんとなく微笑んでいた。
慈乃の歓迎会が行われた日には、扉飾りやキーホルダーを贈られ、居場所を与えられた。今日もまた、心のこもった贈り物を受け取り、生まれてきたことを祝福された。
まるで、いままで真っ白だった時間を埋めるように、ここ一か月ほどは色に満ち溢れた毎日だと思う。
そんな日々は、僅かずつでも、確かに慈乃を変えていた。
失ってしまった時の哀しみを知ってからは、慈乃は大事なものを持っていることが怖くて、増やさないようにしていた。
しかし、今は大事なものがこうして増えていることを、素直に嬉しいと感じる。それとともに湧き上がる感情は感謝だった。
この世界での出会いがなかったら、現在の慈乃はきっといない。
慈乃を変えてくれたひと達に報いたいと心から思うから、自身に出来ることは惜しまずやりたいし、そんなひと達の幸せを祈り、その笑顔をもっと見てみたいとも思う。
そしてそれが、明日を生きたいという願いにも変わる。
メダルは保管しようか、飾ろうか、少し迷ったものの、結局飾ることにした。ちょうど机の前の壁にコルクボードがあるので、そこに掛ける。
いつか、このコルクボードが大事なもので埋め尽くされる日が来るのだろうか。そんな未来を夢想した。
そのとき、背後から鈴のような音が聴こえた。
振り返った先には、低めの棚があり、その上には、カモミールと午前中の柄を裂いたナズナが同じ花瓶に活けてあり、隣には水を張った浅いガラスの器に誕生会で拾ったいくつかの花々がぷかぷかと浮かんでいる。さらに隣には、タンポポオバケが置かれている。
窓からそよ風が入り込むと、また鈴音が鳴った。
しばらく耳をすませていると、鈴の音はやがて声に変わった。
『シノ、おめでとうなの~』『お久しぶりだね』『ね~』
それらしき囁き声は何度か耳にしたが、まともな会話をしたのは歓迎会の夜以来である。
『今日は調子がいいのかな』『天気? 気温? それとも体調?』『違うよ~、シノがルンルンだからだよ~』
「えっと……」
慈乃が困惑気味に声をあげると、カモミールの精のざわめきが止んだ。
「こ、この間は……訊きたいことも言いたいこともあったのに、言えなくて……。今日は、時間はありそう、ですか……?」
『わかんない』『けどけど、なんか今日はいい感じなの~』
若干の不安は残るものの、言い淀んでいる時間すらも惜しいので、慈乃は思い切って心を決めた。
「訊きたいことは……、母はカモミールの花守で、私のことを頼まれていたのでは、ということ、です」
『そうだね』『カミユはカモミールの花守だったよ』『シノのこともよろしくされたよ~』『前にちょっとだけ言ったことあったけど』
そう言って語りだしたのは、カミユとカモミールの遠い昔に交わした約束の話だった。
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